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日外会誌. 122(2): 278-280, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(7)「NCD(National Clinical Database)の10年を振り返る―課題と展望―」 
6.NCDの意義と今後の課題:日本乳癌学会による乳癌登録データを利用した研究を経験して

1) 九州大学大学 院臨床・腫瘍外科
2) 帝京大学 外科
3) 日本乳癌学会登録委員会 

久保 真1)3) , 甲斐 昌也1) , 山田 舞1) , 神野 浩光2)3) , 中村 雅史1)

(2020年8月15日受付)



キーワード
NCD, 乳癌登録データ, 日本乳癌学会, 登録委員会

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I.はじめに
日本乳癌学会(JBCS)の登録事業は1975年に始まり,2004年web登録に移行し,2012年NCDと一体化した.日本乳癌学会では,毎年秋に「NCD乳癌登録データを利用した研究」を公募している.2015年の公募で採用を受け,「HER2陽性pT1乳癌の予後と薬物治療の効果」について検討し,論文化した経験と,現在登録委員会委員としての経験をもとに,NCD の意義と今後の課題について検討した.

II.課題と取り組み
1.登録データの解析と公開
登録されたデータを解析し公開することは,登録とともに重要なミッションであると考える.JBCSでは,年1回研究を公募し,学術委員会と登録委員会がこれを審査している.幸運にも私は,2015年の公募で採用され「2cm以下の乳癌,特にHER2乳癌」について研究をさせていただく機会を得た1).日本のリアルワールドにおいて,腫瘤の大きさ(pT1a:5mm以下,pT1b:6~10mm,pT1c:11~20mm)に応じたトラスツズマブの使用割合の変化を示すことができた(図1).導入期にはどの腫瘍径に対しても一様に使用割合が上昇しているが,やがて各種ガイドラインに準じて適応が落ち着き,腫瘍径に応じた使い分けがなされている.こうした変遷は,年次報告では見えにくく,研究者の視点からデータを再構築して表現することが可能となる.
2.研究公募から審査,採択までの過程の透明化
Public dataという性質上,研究公募から審査,採択までの過程を透明化する必要がある.評価点数や各申請テーマについて議論内容,評価を公表して,可能な限り透明化することができれば,NCDを理解し時に利用することで,登録のモチベーションを上げることにつながる.
3.登録委員会全体での研究プロセスの把握と支援
同研究では,登録委員・統計家各1名のサポートを受けることができ,必要最小限かつ十分なとても良い体制と考える.一方,一旦研究が始まれば小さなグループ作業となるため,登録委員会から進行が見えにくく,現在では定期的な進捗の確認を行う方針となっている.また,研究が重なると統計家の仕事が重積してしまうため,統計家の負担を軽減する体制も必要である.
4.予後情報は生命線
作成した論文データの5年追跡率は最終的に48.2%であった1).そのため,データ解析中にさらに1年間データの集積を待つことになった.乳癌登録では,15年までの予後調査を設定しており,貴重なデータとなりうるが,表1で示されるように予後データの集積には苦労がみられ,完全な実現への道のりは厳しい印象である.その要因の一つは,人手不足であろう.今後この追跡率を向上させるために,外科医の負担を軽減し登録担当の事務職を配置することは必須であろう.
5.倫理審査の問題
2015年当時,NCD研究は「日本外科学会拡大倫理委員会審査申請書」により承認済みとされる,とのことであったが,倫理に対する厳しい社会情勢の変化とともに,筆頭著者所属施設での審査・承認も必要とされた.現在は,登録委員会委員長によってJBCS倫理委員会での承認も受けている.
6.論文発表後,学会ホームページでの公開を拡充
研究を実施する登録委員会とJBCS機関誌であるBreast Cancer誌を担当する編集委員会,ホームページを運用する広報委員会とが連携し,論文内容の解説などを加え重要なデータへのアクセス・理解を容易にする必要がある.現在のホームページでは,発表論文は一覧できるものの,アクセスが良いとは言えない.すべての論文がオープンアクセスであることは言うまでもないが,グラフや表を示し内容を紹介するスペースがあるとより良いと考える.
7.外科医の負担(登録業務)軽減は急務
図2は,2016年年次報告からのデータで,乳癌登録の登録数と登録施設数を表している2).2004年は登録施設317,登録数14,805例であったが,2016年は1,422施設,95,870例と右肩上がりで増加していることがわかる.施設当りでは,年46.7例から67.4例へと増加しており,より効率的な集約とタスクシフトが求められる.

図01図02表01

III.おわりに
NCD研究,JBCS登録委員会委員として,内外の視点からNCD研究の課題について考察した.NCDというビックデータによって,本邦のリアルワールドにおける手術や薬物治療の変遷とその治療効果が明らかとなっている.情報の登録と公開,特に長期的な予後調査は重要である.登録を継続・維持するため,外科医の負担を軽減すること,データを利用してNCDを理解すること,またデータを公開して登録のモチベーションを高めることが重要であると思われる.

 
利益相反:なし

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文献
1) Kubo M , Kawai M , Kumamaru H , et al.: A population-based recurrence risk management study of patients with pT1 node-negative HER2+ breast cancer:a National Clinical Database study. Breast Cancer Res Treat, 178: 647-656, 2019.
2) Kubo M , Kumamaru H , Isozumi U , et al.: Annual report of the Japanese Breast Cancer Society registry for 2016. Breast Cancer, 27: 511-518, 2020.

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