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日外会誌. 122(2): 250-252, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(6)「時代が求める外科医の働き方」 
5.特定行為研修を修了した看護師にタスクシフトするための課題と対策

1) 福島県立医科大学看護師特定行為研修センター 
2) 福島県立医科大学 肝胆膵・移植外科
3) 福島県立医科大学会津医療センター 大腸肛門外科
4) 福島県立医科大学 呼吸器外科

見城 明1)2) , 丸橋 繁1)2) , 遠藤 俊吾1)3) , 鈴木 弘行4)

(2020年8月15日受付)



キーワード
タスクシフト, 特定行為研修, 計画的な養成, 質の担保

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I.はじめに
医師の業務の他職種へのタスクシフトは,当初,医師不足の深刻な国で導入されてきたが,最近では世界のどの地域でも実施されている.世界医師会は,他職種へのタスクシフトに関連した議決を2009年に示した1).その中で,医行為をタスクシフトする際の留意点として,①質・継続性・安全性の担保,②医師および医師会の関与の重要性,③医師のみが行うべきタスクの明確化,④タスクシフトの需要・患者の健康への影響・費用対効果等を考慮する,⑥タスクシフトされる医療者のインセンティブへの配慮,⑦各国の事情に合わせた対策,⑧導入後の調査結果・情報の共有の重要性等が示されている.
日本では,高齢化の進展,ならびに医療の高度化・複雑化を背景に,医師の長時間労働が社会問題となり,将来的に持続可能な医療提供体制を構築するため,医師の働き方改革が検討され,その一つの方策として,チーム医療の推進による医療者の業務範囲の見直しが議論され,特定行為研修を修了した看護師へのタスクシフトの推進が検討されている2)
指定研修機関として特定行為研修を実施している立場から,特定行為を修了した看護師へタスクシフトするための課題と対策について検討する.

II.外科医師数の推移と予測
厚生労働省より出された2018年の医師・歯科医師・薬剤師統計によると,医師数は327,210人で,医療施設に従事する医師数は311,963人(病院:208,127(平均:44.8歳),診療所:103,836(平均:60.0歳))であった.医師数は20年前と比較して1.32倍となり,人口10万人に対する医師数は197人から260人と増加した3)
一方,診療科別医師数の過去20年間の年次推移では,外科が48,558人(病院:34,044人,診療所:14,514人)であり,過去20年間で3.6%減少している.

III.医師の働き方改革
わが国の医療における,医師の長時間労働の実態を背景に,社会情勢の変化に対応し継続可能な医療提供体制を構築するために,2024年4月から労働基準法に基づく医師の働き方改革が適用される予定である3).主な対策として,①労働時間管理の適正化,②医療機関のマネージメント改革,③地域医療提供体制における機能分化・連携,④医師偏在対策の推進,⑤患者意識の改革,⑥医師の勤務環境の整備が挙げられている.医療機関のマネージメント改革として,医師の業務のタスクシフティングによるチーム医療の推進があり,タスクシフティングの対象として特定行為研修を修了した看護師も挙げられている.

IV.看護師の特定行為研修の現状
看護師特定行為研修は,指定研修機関および協力施設で実施している.指定研修機関は,2020年2月現在で191施設まで増加した4).特定行為研修に関して,医師の働き方改革を念頭に,研修のパッケージ化の要望が出され,2019年より【外科術後病棟管理パッケージ】の研修が可能となり,日本外科学会でも受講を推奨している.また,特定行為研修を修了した看護師の配置が総合入院体制加算の要件にも加えられるなど,特定行為研修修了者に対する一定の評価が示されている.

V.本学の研修状況から考える特定行為研修の課題
福島県立医科大学では,2017年4月より指定研修機関として特定行為研修を実施している.研修修了者数は67名で,令和2年度は31名が受講している.受講者の所属施設は,病床数200~399の中小規模の急性期病院が最も多く,年々その割合は増加している.
受講者は,実務年数が10年以上90%,20年以上45%と長期の者が多かったが,看護師免許取得までの養成課程,免許取得後の教育・経験は多様であった(看護師養成所が54名(55.1%),准看護師⇒看護師31名(31.6%),看護系大学5名(5.1%),看護系短期大学1名(1.0%),その他7名(7.1%),認定看護師30名(30.6%)).
研修の指導は,本学ならびに協力施設の医師が担当し,構造化された評価表を用いて臨床実習の観察評価を実施している.看護師への指導や評価を実施した経験がある医師は少なく,指導者によるばらつきが大きいことが課題である.一方,指導者からは,研修の質を担保するためには,全国的に統一した到達目標・評価基準を設けるべきであるという意見が多くよせられている.

VI.研修修了者の管理体制と普及に向けた課題
本学附属病院では,研修修了者の活動に向け,院内に看護師特定行為検討会を設置し,段階的に特定行為を実践する管理体制を構築した(Step1:直接指示下でのOn the job training,Step2:特定行為実践の承認,Step3:所属部署での実践,Step4:横断的活動への拡大).現状としては,複数名の看護師がStep3に移行し,活動を始めている.一方,研修修了した看護師からは,医師との時間調整・通常看護業務との調整・モチベーション維持が困難であるとの意見が聴かれた.また,研修医や専攻医が実践するため特定行為を実践する機会が制限されるという医育機関特有の事情も課題として挙げられた.

VII.研修修了者へのタスクシフトに関する課題と対策
研修修了した看護師へ医行為をタスクシフトする場合,患者の安全を第一に考え,質を担保することが求められる.質を担保するためには,特定行為研修における到達目標,評価基準に一定の基準を設け,指導者が共有することが必要であると考える.この点は,指定研修機関でも共有されている事項であり,現在,厚生労働省の委託事業として特定行為毎の到達目標が検討されている.
研修修了者をふやすためには,特定行為研修を受講する看護師は,通常の看護業務を継続しながら受講することが多く,研修時間や研修期間中の経験には限りがあることが問題である.そのため,手順書により看護師自らが判断して特定行為を実践するためには研修修了後には,on the job trainingが欠かせず,医師の理解および協力が欠かせない.
特定行為研修を修了した看護師が医療現場で活躍するためには,各施設でのニーズやタスクシフトにより得られる効果を検討し,施設内における研修修了者の役割の明確化,養成者数の決定,施設内での周知など,医療機関の意識改革と方針決定が重要である.

VIII.おわりに
医師の働き方改革において,医師自身の働き方の変更のみならずチーム医療の推進による他職種へのタスクシフトの推進が推奨されている.特定行為研修修了者へのタスクシフトが,継続可能なシステムとして定着するためには,患者の安全性の確保が重要であり,医師による指導および監視が不可欠であり,医療機関毎の課題を検討し,計画的かつ段階的にタスクシフトを進める必要がある.

 
利益相反:なし

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文献
1) WORLD MEDICAL ASSOCIATION CURRENT POLICIES  https://www.wma.net/
2) 厚生労働省 医師の働き方改革に関する検討会 報告書  https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04273.html
3) 厚生労働省 平成30(2018)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況  https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/18/index.html
4) 厚生労働省 特定行為に係る看護師の研修制度  https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000087753.html

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