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日外会誌. 122(2): 247-249, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(6)「時代が求める外科医の働き方」 
4.周術期サポートセンターによる多職種連携とタスク・シフティング

1) 国立がん研究センター中央病院 胃外科
2) 国立がん研究センター中央病院 患者サポートセンター
3) 国立がん研究センター中央病院 手術室
4) 国立がん研究センター中央病院 麻酔・集中治療科

和田 剛幸1) , 長谷川 千保子2) , 藤井 恵美2) , 並木 あかね3) , 神谷 綾子1) , 伊達 慶一1) , 林 勉1) , 大槻 将1) , 山形 幸徳1) , 吉川 貴己1) , 片井 均1) , 佐藤 哲文4) , 朴 成和2) , 西田 俊朗1)

2020年8月15日受付)



キーワード
多職種連携, チーム医療, タスク・シフティング

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I.はじめに
近年の外科手術の進歩によって,手術は高度化し,手術時間は長時間となる傾向がみられる.継続して安全な手術を施行するためには,綿密な術前計画と適切な周術期管理が必要となる.また,わが国では高齢化社会によって患者が心,肺,腎等の併存疾患を有する頻度が上昇し,正確なリスク評価とそれに基づく適切な管理の重要性が高まっている.安全な手術を担保するために外科医,麻酔科医が協力して情報収集しているが,併存症を持つ患者の増加は過重労働の一因となりうる.
厚生労働省は医療資源有効利用のために,多様な医療スタッフが,各々の専門性を発揮して業務を分担しつつ連携し,最適な医療を提供するチーム医療を勧めている.当院では患者サポートセンターを開設し,がん治療において患者が直面しうる様々な問題に対して多角的な支援を行っている.その一つとして,周術期管理チームを組織し,正確な手術リスクの評価支援,それに基づく適切な手術計画の作成を行い,より安全で正確な手術の提供に取り組んでいる.近年注目されているタスク・シフティングも導入されている.周術期リスクマネジメントを体系化することによってコメディカルスタッフが主体となってアセスメントし,外科医と麻酔科医が双方向から補填することで,安全性を担保したタスク・シフティングの構築に努めている.

II.患者サポートセンターの開設
がん診療を患者の目線から見直し,より良いがん診療環境を構築することを目的に2016年9月に患者サポートセンターを開設した.常設プログラムとして,看護相談,周術期サポート,相談支援センター,リンパ浮腫ケア外来,アピアランス相談などを備えているが,今回は周術期サポートプログラムについて紹介する.サポートセンターの他のプログラムに関してはホームページhttps://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/support/index.htmlを参照されたい.

III.多職種連携を活用した周術期サポートプログラム
周術期サポートプログラムのメンバーは外科医,麻酔科医,看護師,内科医,精神科医,歯科医,栄養士,薬剤師,理学療法士などから構成される.特徴は医師の初回指示後は看護師のリーダーシップの下に術前検査システムが遂行されることである.採血,レントゲン,心電図,CT,内視鏡検査といった基本的な術前検査のオーダーに加え,これらの検査で異常を示した際の二次検査や専門医コンサルテーションまで,全て体系化されている.基本的に2週間で術前準備が完了し,手術に進む.従来は外科医主導で行っていた多くの業務が安全に移行されている.図1に周術期サポートセンター介入件数のグラフを示す.2016年に胃外科より介入開始後,対象科を拡大している.

図01

IV.サポートセンター介入による手術の延期・中止件数の減少
サポートセンター介入効果を評価するため,介入前後の当科の手術延期・中止件数を比較した(表1).介入前では延期・中止率が7.4%であったのに対して,介入後では4.7%と減少を認めた.表2に延期・中止理由を示すが,肝機能異常,血糖コントロール不良,血栓対策不備,循環器精査不備,低肺機能対策不備,抗凝固・血小板薬未休薬など術前検査の不足や対策の不備によるものが介入後に減少している.従来外科医のみで行ってきた術前検査を,サポートセンターによる複数の視点でチェックすることでミスが回避されている.また,患者都合によるものも減少している.従来は医師-患者間のみで手術日の相談が行われていたことに対し,サポートセンター介入後は看護師を交えることで患者とのコミュニケーションが向上し,より患者都合に沿った手術計画が可能となっている.検査不備や情報不足による手術の延期・中止は,人的・物的医療資源の浪費を引き起こすだけでなく,患者にもストレスを与えるため,極力回避されるべきである.チーム医療によりミスが減少し,安全で効率的な手術室運営が可能となっている.

表01表02

V.おわりに
当院のサポートセンターの取組みを紹介した.外科医減少問題への対策としてタスク・シフティングが提唱されているが,安全性の担保が重要な課題である.当院の術前検査における取組みでは安全性は寧ろ向上しつつ,タスクシフトが可能であった.「時代が求める外科医の働き方」の一助となれば幸いである.

 
利益相反:なし

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