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日外会誌. 121(6): 663-665, 2020

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定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(1)「夢を実現するためのキャリアパス・教育システム」 
6.専攻医の夢を実現するための外科専門研修プログラム

聖路加国際病院 外科専門研修管理委員会

鈴木 研裕 , 海道 利実 , 板東 徹 , 横井 忠郎 , 嶋田 元 , 三隅 寛恭 , 山内 英子 , 岸田 明博 , 松藤 凡

(2020年8月13日受付)



キーワード
聖路加国際病院, 外科専門研修プログラム, 執刀認定制度, GOALS, F L S

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I.はじめに
当院では2016年度から,新たな外科専門研修プログラムを開始した.2015年度以前は,消化器外科や乳腺外科など,それぞれのサブスペシャルティで外科専門研修を行っていた.新外科専門研修プログラムの開始に先立ち,米国の外科研修制度などを参考に,五つのサブスペシャルティが合同で外科専門医を育てる制度としたので紹介する.

II.夢を実現するためのプログラムとは
それぞれの専攻医が持つ夢は,みな異なっている.彼ら,彼女らが夢を実現できるように,外科医の基礎を修得し,キャリアパスを自ら構築できることが,当院プログラムの目標である.
それでは,外科医の基礎とは何であろうか? 当院では,外科医として独り立ちできること,生涯にわたって修練するための方策を身につけることの2点を,外科医の基礎と位置付けている.

III.聖路加国際病院外科専門研修プログラム
聖路加外科専門研修プログラムの特徴として,以下の3点が挙げられる.①外科医として独り立ちすることを目標とすること,②フレキシブルな研修プログラムであること,③特色ある連携施設研修を自ら選択できること,である.
1)外科医として独り立ちするために
外科専門医としては,自分の専門分野に対応するだけでなく,外科医としての幅広い臨床能力が必要である.米国では,臨床能力を評価するためにEntrustable Professional Activities(EPAs)という概念が導入されつつあるが,虫垂炎などの基礎的外科疾患を持った患者に対して,専攻医が一人で対応できることを重視した評価・指導を目指している.
次に,手術の質を担保することやトラブルから専攻医を守ることの両面から,院内に内視鏡手術執刀医認定制度を導入し,米国内視鏡外科学会のFundamentals of Laparoscopic Surgery(FLS)に準じたドライボックスでのタスクと,ブタの臓器を用いたセミ・ウェットラボでのタスクを課し,講習会を開催した上で一定の基準を満たした専攻医のみに手術の執刀を行わせている(図1).
また,手術室での指導にも注力している.腹腔鏡手術では術中指導が難しいため,新しい術式を執刀する際には段階的修練を導入し,ステップごとの指導を行っている.また,Global Operative Assessment of Laparoscopic Skills(GOALS)という評価の定まった内視鏡手術評価システムを用いて,手術後にフィードバックを行い,電子カルテに記録している.これにより,専攻医が手術ビデオとともに評価を振り返ることができる.
2)フレキシブルな研修プログラム
 当院の外科専攻医は3分の1が女性である.結婚など,専攻医それぞれのライフイベントやライフプランに合わせられるよう,フレキシブルなプログラムとしている(図2).
1年目は,当院にて五つのサブスペシャルティを2カ月ずつローテートする.この10カ月間で,外科医の基礎を学びながら,専門医機構および日本外科学会の定めた修了要件である症例を経験する.残りの2カ月間は,自分に必要な知識・技能が学べる院内の診療科を自由選択としている.
2年目は連携施設研修で,詳細は後述する.
3年目は自分の進むサブスペシャルティでの研修を想定しているが,希望に応じて複数科での研修も可能としている.
3)多彩な連携施設を自ら選択できる
当院は都心の一般病院であり,豊富な症例数をもとに外科の基礎をじっくり学ぶ体制を整えている.専門的な外科診療について,連携施設にて経験してもらい将来のキャリアプランの参考となるように配慮している.国立成育医療センターの小児移植外科など,世界最先端の外科診療も経験可能であり,また奄美大島・沖縄など遠隔地での医療も経験できる.

図01図02

IV.志願者数の推移
2015年度以前は毎年2名前後の外科専攻医を受け入れていたが,新制度に移行してからは着実に志願者が増えており,2020年度の募集では定員6名に対して11名の応募があった.志願者の増加は,当院の研修プログラムが研修医や専攻医に評価されているものと考えている.

V.今後の課題
新専門医制度は,大学医局を一般化した,大学病院に有利な制度かと当初は考えていたが,当院には研修を受ける施設を自分で決めたいと考えて見学に来る研修医が増えていると感じる.地域医療体制に配慮しながらも,専攻医に必要な知識・経験を指導できる体制の構築が重要と考える.また,指導医の外科教育に対する知識・技能や熱意がより重要になっており,指導医には外科教育学の発展にキャッチアップしていく努力や後進を育てようという強いパッションが求められている.

VI.おわりに
当院の新外科専門研修プログラムは開始から5年が経過したが,志願者が年々増加しており,研修医・専攻医のニーズと適合していると考える.研修修了後のキャリアをサポートする取り組みなど,今後も当プログラムの改善を継続していきたい.

 
利益相反:なし

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