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日外会誌. 121(4): 477-478, 2020

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卒後教育セミナー記録

日本外科学会第96回卒後教育セミナー(令和元年度秋季)(第81回日本臨床外科学会総会開催時)

知っておくべきサブスペシャルティ領域別トレーニングプログラム
 2-2.知っておくべきサブスペシャルティ領域別トレーニングプログラム
―小児外科―

名古屋大学大学院 小児外科学

内田 広夫

(2019年11月16日受付)



キーワード
小児外科, 手術, off the job training, トレーニング, ハンズオンセミナー

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I.はじめに
小児外科は500g以下の超低出生体重児から50kg以上の中学生までの患者を対象としているため,治療後に大きく成長発達する患者の成長発達を阻害しない治療を行わなければならない.また頸部,心臓を除く胸部,腹部疾患という多彩な疾患を対象として手術治療を行っている.多種多様な疾患へ対応をするためには多くの症例を経験する必要があるが,近年出生数は減少し,さらにそれらの患者が全国各地で多発的に発生するため,同一の疾患・手術経験を多数積み重ねることは難しい現状がある.このような状況の中で小児外科医が多くの疾患に精通し,確実な手術を行うためにはトレーニングプログラムの充実が必要である.

II.トレーニングプログラム
1.座学
日本小児外科学会各種委員会主催で各種講習会が開かれている.
卒後教育セミナー
日本小児外科学会学術集会に合わせて年1回開かれる,疾患に関する教育セミナーである.このセミナーは3年連続で受講することで1シリーズを構成する内容となっており,全身管理,日常疾患,肝胆膵疾患,新生児疾患,悪性腫瘍などを3年間に渡って講義が行われている.講義内容は会ごとに新しく更新され充実したものとなっているが,受講する医師は専門医を取得する前の若い医師が多く,小児外科医全体の教育プログラムとはなっていない.
内視鏡手術セミナー
日本小児内視鏡外科・手術手技研究会が共催となって年2回行われている.1回目は卒後教育セミナーと合わせて行われ,日本内視鏡外科学会の技術認定医の取得を目指した講義を中心としている.2回目はいわゆるアドバンス内視鏡手術に関する講義が行われ,内視鏡手術を安全に広めるための活動となっている.
小児救急セミナーなど
小児外科では,なくてはならない知識の補完として小児救急セミナーが年に1回行われている.またこれらの技術的なものとは異なり,医師として働く上での教育活動として,医療倫理講習会,ワークライフバランスなどの講演が年に1回開催されている.
2.ハンズオンセミナー
内視鏡手術に関しては経験豊富な指導医は技術認定医の数を考えても,十分な人数が確保されているとは言い難い.内視鏡手術は基本的にsolo-
surgeryであり,指導者が術中に指導できない点も存在する.これを補う上で日本小児内視鏡外科・手術手技研究会が共催する小児内視鏡外科技術講習会がある.これは年1回開催され,ベーシックとアドバンスコースがあり,1日目はdry boxなどによる講習,2日目は,噴門形成術,肝管空腸吻合術などの実技指導が行われている.この講習会は2006年から開催され受講者は現在まで延べ350人以上となっている.
もう一つのハンズオンコースとして九州大学が主催するコースがあり,2007年から開催され,延べ約150人が受講している.これらのコースでは技術認定医を取得するための内視鏡手術審査基準を踏襲した実技指導が行われている.

III.今後のトレーニングプログラム
多彩な手術があり,覚えるべき手技が多いにも関らず症例数が絶対的に少ない小児外科においてこそ,開放手術,内視鏡手術に関わらず,on the job trainingを極力減らす努力が必要である.開放手術においては,指導医による適切な指導により,on the job trainingがある程度効果的ではあるが,内視鏡手術ではsolo-surgeryの側面が強いため,off the job trainingをいかに進めていくかが大きな課題と考えられる.現在われわれは生体質感模擬臓器モデルを用いたシミュレーション手術を開発し,講習会を開始した.現在まで高難度手術である,食道閉鎖症,十二指腸閉鎖症,先天性胆道拡張症の肝管空腸吻合に対応したモデルを作成しており,off the job trainingの有効性を検討している.

IV.おわりに
小児外科は他のサブスペシャルティ領域と比較すると症例数が少なく,また内視鏡手術が導入されることによってより多彩な手技の獲得が必要となっている.すべての患者に安全で確実な治療を提供するために,どの領域よりもoff the job trainingを含めた系統だったトレーニングプログラムの確立が望まれる.

 
利益相反:なし

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