日外会誌. 121(3): 385-387, 2020
生涯教育セミナー記録
2019年度 第27回日本外科学会生涯教育セミナー(北海道地区)
各分野のガイドラインを紐解く
3.肝癌診療ガイドライン(2017年版)の改訂ポイント
旭川医科大学 外科学講座肝胆膵・移植外科学分野 横尾 英樹 , 萩原 正弘 , 高橋 裕之 , 今井 浩二 , 松野 直徒 , 古川 博之 (2020年1月11日受付) |
キーワード
The Japan Society of Hepatology, Hepatocellular Carcinoma, Guidelines 2017
I.はじめに
肝癌診療ガイドラインは2005年に初版が刊行され,以後4年ごとに改訂を重ね2017年に第4版となる改訂版が出された.2017年版の特長としては2013年版までEvidence Based Medicine(EBM)の手法で策定されてきたものがGrading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation(GRADE)システムが導入されたことである.これによりエビデンスとコンセンサスを考慮した内容となり推奨度と強度の二つのファクターによって四つのカテゴリーにわけられ推奨度を決定している.今回の改訂ではClinical Question(CQ)が大改訂13個,微修正または改訂なしが30個,新設12個の55個の新たなCQが設定された.
本稿ではそれぞれの改訂ポイントについて簡単に述べることとする.
II.それぞれの改訂ポイント
1.診断およびサーベイランス
CQ1のサーベイランスは推奨されるかという問いに対しては二つの論文を根拠に強く推奨されるとされた1)2).B,C型慢性肝炎,非ウイルス性肝炎などの高危険群は6カ月毎,さらに肝硬変を伴った超高危険群に対しては3~4カ月毎の超音波検査と腫瘍マーカーの測定を強く推奨している.早期肝細胞癌の診断ではGd-EOB-DTPA造影MRIが強く推奨され3),経動脈性門脈造影下CT(CTAP)と肝動脈造影下CT(CTHA)が削除された.
2.治療アルゴリズム
2013年版では肝障害度,腫瘍数,腫瘍径の三つのファクターによって治療が決められていたが,今回の改訂では肝予備能(Child-Pugh分類),肝外転移の有無,脈管侵襲の有無,腫瘍数,腫瘍径の五つのファクターによって治療法が定められた.Child-Pugh分類AまたはBで肝内病変がない,もしくは良好にコントロールされている肺転移,副腎転移,リンパ節転移,播種病変に関しては切除を含む局所療法が選択されることもあることが弱い推奨としてあげられている.Child-Pugh分類Cでミラノ基準以内であれば肝移植が強く推奨されることは従来通りであるが,2019年8月に腫瘍径5cm以内かつ腫瘍個数5個以内かつAFP500ng/ml以下(5-5-500基準)が保険収載されたため次回の改訂では追記されることが予想される4).
3.予防
C型慢性肝炎を背景とした肝細胞癌では従来のインターフェロンに加え,DAA治療も12週間の内服でほぼSVRが得られるという理由により追記されることとなった5).また,ウイルス性,非ウイルス性を問わない発癌予防策として弱い推奨ながらコーヒー摂取,多価不飽和脂肪酸の摂取が発癌リスクを減少させる可能性があることが記載された6)7).
4.手術
肝切除の適応として個数が3個以下,大きさの制限はなく一次分枝までの門脈侵襲は強い推奨とされた.ただし,肝静脈,胆管腫瘍栓に関しては報告がさまざまで推奨として記載されるまでには至らなかった.腹腔鏡下肝切除も広く行われるようになってきたことからその適応についてのCQが追加され,肝前領域(S2,3,4,5,6)の5cm以下の単発腫瘍が強く推奨されるとした.
5.穿刺局所療法(RFA),肝動脈塞栓(化学)療法(TACE)
2013年版では「先行するTACEによってRFAの予後向上に寄与するかについては十分なエビデンスがない」とされていたが,2017年版では比較的大型の腫瘍に焼灼療法を適用する場合には,TACEとの併用で予後改善が期待できることが弱く推奨されている8).TACEに関しては2017年版から推奨文の適応にBCLC(Barcelona Clinic Liver Cancer)Stageが用いられ,腫瘍数4個以上,Child-Pugh分類A~B,PS0でBCLC Stage Bの手術不能でかつ穿刺局所療法の適応にならない多血性肝細胞癌をTACEの適応として強く推奨している.再塞栓療法の時期については腫瘍マーカーの上昇は除外された.
6.薬物療法,放射線治療
2008年にSHARP試験により外科切除や肝移植,局所療法,TACEが適応とならない切除不能進行肝細胞癌でPS良好かつ肝予備能が良好なChild-Pugh分類A症例に対してソラフェニブの有効性が示され,2017年にソラフェニブ耐性の症例に対してはレゴラフェニブの有効性が,さらにレンバチニブがソラフェニブの比較試験において非劣性が示された.今回の改訂ではそのことが反映された記載となっている9)
~
11).放射線治療の適応は他の局所療法の適応困難な肝細胞癌,およびTACE不応例を含む様々な局所再発例で,特に骨転移,脳転移に関しては強い推奨として追加されている.
7.治療後のサーベイランス・再発予防・再発治療
根治治療後の再発予防ではウイルス感染に起因する肝細胞癌において,肝切除後や穿刺局所療法後の抗ウイルス療法は再発抑制や生存率の向上に寄与する可能性があることが弱く推奨されている.肝移植後の再発抑制では肝移植後のmTOR阻害薬を用いた管理は肝細胞癌の再発を抑制する可能性があることが弱く推奨されている12).
III.おわりに
2017年版のガイドラインが出てからもうすでに3年が経過しようとしている.2017年以降,新しい知見が次々と報告され,例えば,肝細胞癌の肝移植は2019年の8月にミラノ基準内あるいはミラノ基準外でも腫瘍径5cm以内かつ腫瘍個数5個以内かつAFP 500ng/ml以下(5-5-500基準)が新基準として保険収載されている.薬物療法に関してはラムシルマブの登場や,さらに今年,免疫チェックポイント阻害薬の成績なども公開される予定であり次回の改訂ではそのような項目が盛り込まれることが予想される.
この講演内容は,2020年1月11日に開催した第27回日本外科学会生涯教育セミナー(北海道地区)の記録で,北海道外科雑誌にも掲載している.
利益相反:なし
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