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日外会誌. 121(3): 380-382, 2020

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生涯教育セミナー記録

2019年度 第27回日本外科学会生涯教育セミナー(北海道地区)

各分野のガイドラインを紐解く
 1.急性・慢性心不全診療ガイドライン(2018年版)

北海道大学大学院 医学研究院循環病態内科学教室

安斉 俊久

(2020年1月11日受付)



キーワード
心不全, 高血圧, 心筋梗塞, 弁膜症, 左室駆出率

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I.はじめに
心不全とは,ポンプとしての心臓の機能が低下し,体が要求する血液を十分に送り出せなくなることによって起こる労作時息切れや呼吸困難などの一連の症状をさす症候群である.一度発症すると,治療により一時的には安定化するものの,生活習慣の乱れなどによって容易に急性増悪を繰り返し,予後はがんと同様に不良といわれている.一般的には良性疾患と考えられており,急性増悪の場合でも利尿薬により速やかに症状が改善することから,比較的軽く考えられてしまうことも多いが,先進国においては,心不全患者が増加の一途をたどっており,急性増悪による入退院をいかに防ぐかが喫緊の課題となっている.急性心不全の多くは慢性心不全の急性増悪であることから,2018年に改訂されたガイドラインでは,これまで二つに分かれていた急性心不全と慢性心不全のガイドラインが,急性・慢性心不全診療ガイドラインとして統合されるに至った1)

II.改訂ガイドラインに基づいた心不全診療
心不全は,心筋梗塞や高血圧,弁膜症,心筋症など様々な疾患が原因となって生じる.高血圧や心筋梗塞をはじめとした虚血性心疾患,弁膜症は年齢とともに増加することから,高齢化社会の進行とともに心不全患者数は年々増加している.心不全は,左室収縮能の指標である左室駆出率(LVEF)によって,LVEFの低下した心不全(HFrEF),保たれた心不全(HFpEF),軽度低下した心不全(HF),改善した心不全(HFrecEF)に分類される(表1).加齢とともに左室拡張機能は低下するため,収縮不全よりも拡張不全を主体としたHFpEFが人口の高齢化とともに増加しており,有効な薬物療法も未だに開発されていないことから大きな問題となっている.
心不全を予防するためには,高血圧や心筋梗塞などの原因疾患に対して適切な治療を行うことがまず重要である.心筋梗塞を万が一発症してしまった場合には,心臓の障害を最小限にするため,できるだけ早期に治療を行う必要がある.ただし,心筋梗塞後に心臓の機能障害が残ってしまった場合でも,すぐに息切れなどの症状が出現することは少ない.これは,低下した心機能を代償するために,神経体液性因子の賦活化をはじめとした様々な生体の反応が生じるからであるが,弱った心臓に長期にわたって負荷が加わると,心臓の機能はさらに低下し,塩分の摂取過多や感染症,過労,ストレスなどを契機として,労作時の息切れや呼吸困難などの心不全症状が出現するようになる.これを防ぐためには,症状が出現する以前からの生活管理や薬物治療が非常に大切である.また,症状出現後に病状が進行すると,急性増悪といわれる急激な心不全の悪化により入退院を繰り返すようになってしまう場合がある(図1).これまでに急性増悪を防ぐための様々な薬物・非薬物療法が開発されてきた.

図01表01

III.おわりに
心不全は様々な循環器疾患の終末像ともいえるが,終末期に至る前の段階で適切な治療を行うことが最も重要であり,器質的心疾患がない段階および器質的心疾患があるものの症状を呈していない段階における治療が,心不全パンデミックに対する最も重要な対策と考えられる.
この講演内容は,2020年1月11日に開催した第27回日本外科学会生涯教育セミナー(北海道地区)の記録で,北海道外科雑誌にも掲載している.

 
利益相反
講演料など:第一三共株式会社,小野薬品工業株式会社,バイエル薬品株式会社,ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社,日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
奨学(奨励)寄附金:第一三共株式会社
寄付講座:日本メドトロニック株式会社,バイオトロニックジャパン株式会社,株式会社ウイン・インターナショナル,株式会社メディカルシステムネットワーク,株式会社 ほくやく・竹山ホールディングス

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文献
1) 日本循環器学会,日本心不全学会:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版).2018年3月 http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_tsutsui_h.pdf.

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