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日外会誌. 121(2): 274-276, 2020

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生涯教育セミナー記録

2019年度 第27回日本外科学会生涯教育セミナー(中国・四国地区)

各分野のガイドラインを紐解く
 5.大腸癌診療ガイドライン

1) 広島大学病院 消化器・代謝内科
2) 広島大学病院 内視鏡診療科

岡 志郎1) , 田中 信治2)

(2019年9月20日受付)



キーワード
Colorectal cancer, JSCCR guidelines

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I.はじめに
大腸癌治療の質や治療成績の向上を目的として,大腸癌研究会より2005年に大腸癌治療ガイドラインが刊行され,最新の知見を踏まえて2019年1月に大腸癌治療にかかわるすべての領域の改訂版が刊行された.本稿では,最新版である大腸癌治療ガイドライン医師用2019年版1)における各論の主な変更点について解説する.

II.Stage 0〜Stage Ⅲ大腸癌の治療方針
1)内視鏡治療
内視鏡治療の原則「リンパ節転移の可能性がほとんどなく,腫瘍が一括切除できる大きさと部位にある」,および内視鏡的切除の適応基準 1)粘膜内癌,粘膜下層への軽度浸潤癌,2)大きさは問わない,3)肉眼型は問わない,に関しては前版と変わらない.また,cTis癌またはcT1癌の治療方針も前版同様である.
内視鏡的粘膜下層剥離術に関して,2018年4月の改訂で腫瘍径の上限が撤廃され,2cm以下でも線維化を伴う早期大腸癌も適用となった.また,内視鏡的切除後の経過観察について,pTis 癌での分割切除,水平断端陽性の場合は6カ月前後での大腸内視鏡検査が必要なことが追加された.
2)手術治療
手術の原則に関しては従来通りである.リンパ節郭清度は,術前の臨床所見(c)および術中所見(s)によるリンパ節転移の有無と腫瘍の壁深達度から決定する.術前・術中診断でリンパ節転移を認める,または疑う場合は,D3郭清を行い,リンパ節転移を認めない場合は,壁深達度に応じたリンパ節郭清を行う.(1)pTis癌はリンパ節転移をきたさないのでリンパ節郭清の必要はないが(D0),cTis癌で腸管切除を行う場合にはD1郭清を行ってもよい.(2)pT1癌に約10%のリンパ節転移があること,中間リンパ節転移も約2%あることから,cT1癌ではD2郭清が必要である.(3)cT2癌の郭清範囲を規定するエビデンスは乏しいが,少なくともD2郭清が必要である.なお,pT2癌には主リンパ節転移が約1%あること,および術前深達度診断の精度を考慮し,D3郭清を行ってもよい,と記載されている.
主な変更点として,括約筋温存の適応基準が追加され「腫瘍学的に遺残のない切除(肛門側切離端・外科剝離面ともに陰性=DM0,RM0)が可能であること,術後の肛門機能が保たれることが,括約筋温存の適応の必要条件である」とされた.また,切離腸管長について「pT4,pN2,M1(Stage Ⅳ),低分化な組織型の直腸癌症例では肛門側進展を有する頻度が高く,進展距離が長い傾向があることに留意する」とのコメントが追加された.

III.StageⅣ大腸癌の治療方針
基本的な治療方針は従来通りである.遠隔転移巣ならびに原発巣がともに切除可能な場合には,原発巣の根治切除を行うとともに遠隔転移巣の切除を考慮する.遠隔転移巣が切除可能であるが原発巣の切除が不可能な場合は,原則として原発巣および遠隔転移巣の切除は行わず,他の治療法を選択する.遠隔転移巣の切除は不可能であるが原発巣切除が可能な場合は,原発巣の臨床症状や原発巣が有する予後への影響を考慮して,原発巣切除の適応を決定する.
主な変更点としては,腹膜転移の手術に関し,P1は完全切除が「望ましい」から「強く推奨」,P2では完全切除を「考慮する」から「推奨する」に変更された.また,遠隔転移巣治癒切除後の補助化学療法について「臨床試験として実施するのが望ましい」から「再発率が高いことを鑑みて,その実施が推奨される」に変更された.

IV.再発大腸癌の治療方針
再発大腸癌の治療目的は,予後向上とQOLの改善である.手術療法,全身薬物療法,放射線療法が中心であり,動注化学療法,熱凝固療法などの施行は推奨されない.
主な変更点としては「切除可能な再発病変に対する術前化学療法の有効性・安全性は明らかでなく,適応は慎重に考慮すべきである」および,「再発巣切除後の補助化学療法については,5-FUまたはUFT/LVが肝転移切除後の無再発生存期間を延長するという報告のほかは,明らかな有効性を示したデータはない」が追加された.また,完全切除が期待できない場合の治療法について,「全身薬物療法が継続的な病勢制御の観点から治療の第一選択となる」「化学放射線療法または放射線療法も治療選択肢となりうる」が追記された.

V.血行性転移の治療方針
主に肝転移に関して述べる.肝転移の治療は,肝切除,全身薬物療法,肝動注療法および熱凝固療法がある.根治切除可能な肝転移には肝切除が推奨され,肝切除術には系統的切除と部分(非系統的)切除がある.肝切除の適応基準は,1)耐術可能,2)原発巣が制御されているか,制御可能,3)肝転移巣を遺残なく切除可能,4)肝外転移がないか,制御可能,5)十分な残肝機能,である.
主な変更点としては,「肝切除後の全身化学療法・肝動注療法の有効性はいまだ確立されていない」から「肝切除後の補助化学療法の有効性を明確に示すエビデンスは十分でないが,再発率が高いことを鑑みて,その実施が推奨される」に,「切除不能肝転移例に対して肝動注療法あるいは熱凝固療法を行う場合は原発巣が制御されていることが望ましい」を「一般的には推奨されない」に変更された.

VI.薬物療法
主に術後補助化学療法について述べる.適応の原則は,1)R0切除が行われたStage Ⅲ大腸癌(結腸癌・直腸癌),2)術後合併症から回復している,3)Performance status(PS)が0~1である,4)主要臓器機能が保たれている,5)重篤な術後合併症(感染症,縫合不全など)がない,ことである.今回,臨床試験において有用性が示され,本邦で保険診療として使用可能な術後補助化学療法レジメンが明記され,投与期間6カ月が原則と記載された.
主な変更点としては,「推奨される化学療法」を「使用可能な術後補助化学療法レジメン」とし,CAPOX(preferred),FOLFOX(preferred),Cape,5-FU+l-LV,UFT+LV,S-1とされた.術後補助化学療法の実施や治療レジメンは,「腫瘍因子から期待される術後再発抑制効果だけでなく,治療因子,患者因子を考慮して決定する.」が追加され,「術後補助化学療法は,術後4~8週頃までに開始することが望ましい」を,「術後8週頃までに開始することが望ましい」に変更された.

VII.おわりに
各論の変更点を中心に解説した.ガイドラインの治療指針は,本邦における大腸癌治療水準の均てん化,治療成績の向上,過剰診療・治療や過小診療治療をなくすために不可欠であり,何よりも患者利益に資することが期待される.

 
利益相反:なし

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文献
1) 大腸癌研究会編:大腸癌治療ガイドライン 医師用2019年版.金原出版,東京,2019.

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