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日外会誌. 120(1): 30-36, 2019


特集

大腸手術における周術期感染対策―EBMに基づいたbest practice―

5.術後感染を防ぐ手術手技と管理の工夫―直腸癌手術―

東京女子医科大学 消化器・一般外科

板橋 道朗 , 谷 公孝 , 前田 文 , 中尾 紗由美 , 番場 嘉子 , 大木 岳志 , 小川 真平 , 井上 雄志 , 山本 雅一

内容要旨
腹腔鏡下手術の導入により直腸癌手術は大きく変化したが,術後感染を防ぐ方策に必ずしも十分なエビデンスがあるわけではない.本稿では,手術部位感染(surgical site infection:SSI)を中心に術前管理,手術手技,術後管理のエビデンスと工夫について述べる.直腸癌手術のSSIの発生率は,結腸に比べて高頻度であり,incisional SSI,organ/space SSIに分けても同じ傾向が認められる.腹腔鏡下手術でも同様の傾向で,ストーマの存在や縫合不全の発生率の差がこの原因である.直腸癌手術のSSI発生リスク因子は,大腸手術のリスク因子に加えて腹腔鏡下手術の開腹手術への移行,肛門縁からの距離,ストーマ造設などである.大腸手術における腸管前処置(Bowel preparation:BP)として機械的腸管前処置(Mechanical Bowel preparation:MBP)と経口抗生剤術前投与(Oral Antibiotic preparation:OAP)の併用はSSI発症リスクを減少させるが,直腸手術に限ればエビデンスが少なく,コンセンサスが得られていない.
低位前方切除術では,縫合不全の予防を期待して一時的ストーマ(Diverting stoma:DS)を造設されている.DSは,縫合不全の減少効果は認めないものの,腹膜炎の程度を軽減させ,再手術率を低下させる効果がある.また,低位前方切除における予防的な経肛門ドレーンの留置は,縫合不全の予防に有用である.術後管理はクリニカルパスを用いて標準的な治療を行うことで,合併症を増加させずに,入院期間の短縮を行っている.今後は目の前の患者や自施設がどのエビデンスに該当するかを冷静に判断することが求められる.

キーワード
腹腔鏡下手術, 手術部位感染, 腸管前処置, 縫合不全, 一時的ストーマ


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