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日外会誌. 119(5): 516-521, 2018


会員のための企画

パリ同時多発テロにおける医療対応から学ぶべきこと

東京大学大学院 医学系研究科救急科学分野

森村 尚登

内容要旨
2015年11月にフランスのパリにおいて同時多発の銃撃・爆弾テロが起き,大惨劇となったことは記憶に新しい.パリ公立病院連合(Assistance Publique Hôpitaux de Paris:APHP)と公立救急医療支援組織(Services d’Aide Medicale Urgente:SAMU(サミュ))の情報提供に基づき,医療対応を報告する.同国は,多数傷病者発生事故対応として,病院前,病院内・間,同時多点対応計画を策定している.爆傷・銃創時の現場対応として,現場医療チームによるターニケット・凝血促進剤含浸ガーゼの積極的使用等による外出血制御,制限的輸液/血管収縮薬,トラネキサム酸,低体温是正,手術室直接搬入をプロトコル化している.現場死亡129人.多くは警察や救助隊到着前死亡で,頭部か胸部,または多部位銃創によった.現場医療チーム判断で「1箇所の穿通性胸部銃創」と「腹部と下肢双方の銃創」を絶対緊急とし,5~8人を1グループにして地区ごとに事前に決められた計18病院に逐次356人を搬送.53人を受け入れたPitié Salpêtrière大学病院は,23人の手術適応例に対し13の手術室を飽和させることなく最大10列稼働でダメージコントロールサージェリーを実施.APHP16病院の1週間後死亡率1.3%.今後わが国で同時多数穿通性外傷例発生時の関連部門の対応の体系化を図るうえで,簡便なトリアージと迅速な病院前治療,事前指定病院への逐次グループ搬送体制,手術室直入体制と手術室サージ対応能力の強化,外傷センターの設置と地域内病院群体制の構築が課題と考える.

キーワード
多数傷病者事故, 銃創, 爆傷, ダメージコントロールサージェリー


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