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日外会誌. 119(3): 286-292, 2018


特集

外科医のがん研究

6.肺がん微小環境を標的としたがん治療

大阪大学大学院 医学系研究科呼吸器外科学

新谷 康 , 奥村 明之進

内容要旨
I.はじめに 薬剤耐性を生じやすい癌細胞に比較して,癌周囲微小環境を標的とした治療には抵抗性を生じにくいと予測され,新たな癌治療として注目されている.
II.癌の悪性化と治療抵抗性 癌が浸潤・転移を起こすためには,癌細胞が上皮としての性格を失い間葉系の細胞へ変化し(上皮間葉移行EMT),浸潤・転移能を獲得する過程を経る必要がある.また,EMTは治療抵抗性など癌幹細胞形質の獲得にも関連している.実際,放射線化学療法を施行した肺癌症例の残存癌組織内にEMTマーカー陽性細胞を認め,予後に関連していた.
III.上皮間葉転移行と肺癌周囲微小環境 腫瘍組織を構成する細胞成分のなかで主体となる細胞は線維芽細胞であり,非癌部の線維芽細胞と比較して活性化しており癌関連線維芽細胞CAFと呼ばれる.CAFからさまざまなサイトカインが産生されており,中でもIL-6が腫瘍間質における癌細胞のEMT誘導に関与し,TGF-βと相乗的に作用してEMTが誘導されることを示した.切除標本内には活性化した線維癌細胞がびまん性に増加している症例で,腫瘍内にEMT陽性細胞を認め,予後と相関していた.したがって,CAFを介したサイトカインループの制御が癌周囲微小環境を標的とした治療になりえると考えられる.
IV.おわりに 癌周囲微小環境を制御することで,腫瘍悪性化,治療抵抗性獲得を抑制することで,複数のメカニズムから癌治療につながると期待される.

キーワード
肺癌, 微小環境, 上皮間葉移行, 癌関連線維芽細胞, 癌幹細胞


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