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日外会誌. 115(3): 130-136, 2014


特集

肺癌治療の最近の動向

4.分子標的治療薬

近畿大学 医学部外科学講座呼吸器外科部門

須田 健一 , 光冨 徹哉

I.内容要旨
癌は遺伝子異常によって起こる疾患であり,ゲノムの不安定性も影響して,臨床的に発見される際には多くの遺伝子変異·増幅·転座·欠失が蓄積している.しかし近年,肺腺癌を中心とする一部の肺癌では“driver変異”と呼ばれるひとつの遺伝子異常が癌細胞の生存·増殖の要となっていること,driver変異を抑制することでしばしば劇的な抗腫瘍効果が得られることが明らかとなった.代表的なdriver変異として,本邦肺腺癌の約40%を占めるEGFR(epidermal growth factor receptor)遺伝子変異や,本邦肺腺癌の約3%にみられるALK(anaplastic lymphoma kinase)転座が挙げられる.これらの遺伝子異常を有する肺癌に対しては,それぞれEGFRキナーゼ阻害剤やALKキナーゼ阻害剤を用いた単剤療法が臨床応用され,これまでの第一選択薬であったプラチナ併用化学療法をはるかに凌ぐ治療成績が得られている.このため,EGFR,ALKに次ぐdriver変異の探索や,新規driver変異に対する分子標的治療薬の開発が急速に進められている.その結果,肺腺癌においてはHER2変異,BRAF変異,ROS1転座,RET転座,NTRK転座などが,肺扁平上皮癌においてはFGFR1増幅やDDR2変異,FGFR3転座などが次々と同定され,さらに,これらのdriver変異を有する肺癌に対する分子標的治療薬の臨床応用も試みられている.一方,その劇的な初期治療効果にも関わらず,分子標的治療薬に対する耐性の獲得はほぼ必発である.今や肺癌治療のkey drugとなった分子標的治療薬に対する耐性の克服が,今後の最重要課題のひとつである.

キーワード
Driver変異, 個別化治療, EGFRチロシンキナーゼ阻害剤, ALKチロシンキナーゼ阻害剤, 獲得耐性


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