[書誌情報] [全文PDF] (3596KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 90(8): 1205-1212, 1989


原著

進行胃癌のペプシノーゲン産生に関する研究

国立仙台病院 外科

斎藤 俊博

(1988年10月17日受付)

I.内容要旨
胃癌の進展に際し,プロテアーゼが注目されており,酸性プロテアーゼであるベプシノーゲンの胃癌組織における産生を酸性プロテアーゼ比活性,polyacrylamide gel electrophoresis(PAGE),ならびにgroup I pepsinogen(PG I),group II pepsinogen(PG II)の抗体を使用した酵素抗体法の3つの方法を用い,進行胃癌60例の切除標本において検討した.
胃癌組織の酸性プロテアーゼ比活性は23.6±14.1μg/mg protein/minで,正常胃体部粘膜に比し活性は低いが,コントロールとした正常胃体部筋層の1.63±1.53μg/mg protein/minと比較して有意に高値を示した.
胃癌組織のペプシノーゲン産生は酵素抗体法では53%,slow moving protease(SMP)を含むPAGEでは78%の陽性を示した.ペプシノーゲン・アイソザイムについては酵素抗体法ではPGI陽性43%,PG II陽性48%,PAGEではPG I陽性38%,PG II陽性43%,SMP陽性58%と,酵素抗体法,PAGEともにPG I,PG II陽性はほぼ同率を示した.
ペプシノーゲン陽性率を臨床病理学的に検討すると,年齢別では60歳以下が酵素抗体法,PAGEとも有意に高く,腫瘍の占居部位別ではPAGEにおいて噴門部が幽門部に比し,ペプシノーゲン陽性率が有意に高率を示した.Borrmann分類別では酵素抗体法において,4型が2,3型に比し有意に高いが,組織型別では有意差は認められなかった.癌の進行度別にペプシノーゲン陽性率をみると,壁深達度別ではssγ~si群が,stage分類別ではstage IV群が高率を示し,リンパ節転移別ではn2~n3群がn0~n1群に比して,酵素抗体法,PAGEとも,ペプシノーゲン陽性率が有意に高率を示し,癌の進行とともに癌組織のペプシノーゲン産生は増加する傾向を示した.
癌組織で産生されるペプシノーゲンが細胞間結合を解離させて印環細胞生成の原因となり,間質に対しては起炎物質として線維増生を来しながら癌が浸潤していく可能性がある.

キーワード
ベプシノーゲン, 胃癌, 酸性プロテアーゼ比活性, ペプシノーゲン・アイソザイム


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。