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書誌情報]
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日外会誌. 84(8): 667-673, 1983
原著
頚部腫瘤の穿刺吸引鑑別診断
-多角的診断技術の応用-
I.内容要旨頚部の腫瘤性疾患は多彩であり,その鑑別診断は容易ではない.頚部腫瘤には嚢胞性のものが多いことも一つの特徴である.そこで,われわれは,その鑑別診断のため,穿刺吸引を行い,腫瘤か嚢胞性か実質性かを鑑別し,採取標本にて細胞診を行う他に,穿刺液の肉眼所見により細菌学的検査や上皮小体ホルモン・サイログロブリン含量の測定などを多角的に応用することにより,著しい診断成績の向上を得たので報告する.
1981年1年間の大阪大学第二外科の甲状腺腫瘍新患109例中,穿剌吸引細胞診施行例は85例, 手術施行例は63例であつた.病理組織診断の確定した症例について,触診,軟X線撮影,穿刺吸引細胞診の診断成績を比較すると,穿刺吸引細胞診の成績は偽陰性4%,偽陽性0%で最も優れていた.しかも,穿刺吸引細胞診による組織型診断は,病理組識診断とよく一致した.非腫瘍性甲状腺疾患では,慢性甲状腺炎,亜急性甲状腺炎,急性化膿性甲状腺炎が診断可能であつた.正中頚嚢胞,側頚嚢胞の穿剌吸引液は特徴的な肉眼所見,細胞診所見を呈した.上皮小体嚢胞は,水様透明の穿刺吸引液中の上皮小体ホルモン含量が著しく高値であることから診断できた.頚部リンパ腺腫に対しては穿剌吸引細胞診で,悪性リンパ腫・転移性腺癌・扁平上皮癌・炎症の鑑別が可能であり,膿汁が得られた場合は細菌学的検査により起炎菌の証明が可能であつた.甲状腺以外の部位から淡褐色漿液性の排液を得た場合は,甲状腺乳頭癌のリンパ節転移巣が嚢胞を形成したものを考える必要がある. このような2例で穿刺液中のサイログロブリン値が高値であることから,潜在性甲状腺乳頭癌のリンパ節転移が嚢胞を形成したものと診断できた.
頚部腫瘤の鑑別診断における穿刺吸引の意義は極めて大きく,積極的に試みて良い方法であると考えられる.
キーワード
頚部腫瘤, 甲状腺腫瘍, 穿刺吸引細胞診, ホルモン測定
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