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日外会誌. 83(5): 457-467, 1982


原著

ヌードマウス移植ヒト消化器癌および乳癌株の特徴
-とくにそのCEA産生性と抗癌剤感受性について-

大阪大学微生物病研究所 臨床部門外科

藤田 昌英 , 大嶋 一徳 , 薄金 眞雄 , 早田 敏 , 中野 陽典 , 田口 鉄男

(昭和57年1月25日受付)

I.内容要旨
教室で過去5年間に試みた胃癌その他の消化器癌と乳癌,計63例のヌードマウスヘの移植成績と,その着床に及ぼす因子,および,継代移植成功例21株の生物学的特徴について,ことにそのCEA産生性と抗癌剤感受性の保持の面から検討した.
胃癌33例,その他の消化器癌6例,乳癌24例の移植率は,それぞれ39,100,21%であり,その多くで継代にも成功した.着床を高める要因は,移植材料として原発巣より転移巣を用い,採取後短時間のうちに移植すること,間質が少なくcellularityの高い材料を用いることであつた.
継代腫瘍株は継代を重ねても,組織学的に原腫瘍の特徴をよく保つており,腫瘍細胞の染色体は人型のもののみから成つていた.各腫瘍株は継代を重ねても発育速度は変らず,各株固有の速度を保つており,それぞれの体積倍加時間は5日から30日の間に分布していた.
検索した13株の担癌ヌードマウス血清中にすべてヒトCEAが見出され,腫瘍重量の増加と強い相関をもつてマウス血清CEA値は増加した.直腸癌や一部の胃癌では,膵癌や乳癌に比べ,腫瘍が比較的小さい時からCEA値は高かつたが,この成績はそれぞれの腫瘍株のdonor患者における血清CEA値と強い相関を示した.また各腫瘍株のCEA産生性は,継代移植を繰り返しても変化せず維持されていた.
7株のヌードマウス移植人癌について行つた9種の実験化学療法の成績を,それぞれのdonor患者における同一薬剤に対する臨床抗癌成績と対比したが,両者の結果はよく一致していた.
このヌードマウス移植人癌株は,組織形態だけでなくCEA産生性や抗癌剤感受性などの機能面でも原腫瘍の性質をよく保っており,実験化学療法やその他の人癌を用いる研究のすぐれた素材である.

キーワード
ヌードマウス移植ヒト癌, 胃癌, 乳癌, 癌胎児性抗原, 抗癌剤感受性


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