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日外会誌. 82(2): 139-148, 1981


原著

cyclic AMPからみた阻血中の心筋保護に関する実験的研究

昭和大学 医学部外科

吉沢 綱人 , 高場 利博 , 山城 元敏 , 前田 洋 , 石井 淳一

(昭和55年7月1日受付)

I.内容要旨
開心術中阻血状態に陥つた心筋に対する心筋保護効果について検討するため,各種阻血状態とした心筋 にcatecholamineを負荷して,反応性をcyclic AMPを指標として測定した実験を行つた.
方法:Ratを開胸後,直ちに大動脈をその起始部で遮断,以下の条件下においた.
I群:常温下,常温生食水による冠血管床の洗滌.II群:30℃軽度低体温下,20℃生食水による冠血管床の洗滌.III群:30℃軽度低体温下,4℃生食水による冠血管床の洗滌.IV群:30℃軽度低体温下,ハル トマン液をbase としたpH7.9,K+30mEq/L,浸透圧380mOsm/L 4℃の液で冠潅流, V群:IV群と同様で浸透圧のみを500mOsm/Lとした液で冠潅流,VI群:IV群と同様でK+濃度を60mEq/L とした液で 冠潅流.常温大動脈遮断のみの群を対照群とした.上記の各群の左室心筋を大動脈遮断後30分,60分,120 分,180分,240分で切除し,isoproterenolを負荷して, 心筋cyclic AMP産生の測定を行つた.
結果:常温単純大動脈遮断のみでは,阻血30分で正常心筋に比して40%のcyclic AMP産生反応しか示さず, 240分後においては全く反応を示さなくなる. 生食水による冠血管床の洗滌はcyclic AMP産生系の保護に短時間に有効であり, 頻回の施行,および冷却した液の使用は更に有効であつた. IV群の cardioplegic solutionの使用は阻血30分で正常心に比して111%のcyclic AMP産生反応を示し, 阻血中の心筋保護に有効である点をcyclic AMP産生系より認め,また長時間においてもその効果を認めたが, 高K+液群および高浸透圧液群は薬剤の添加効果を認めず逆に冠血管床の洗滌効果,冷却効果を打ち消し常温単純大動脈遮断群と同値もしくは低値を示した.
阻血状態での心筋cyclic AMP産生系への保護は重要であり,またcyclic AMP産生系は心筋保護効果に対する示標となる.

キーワード
cyclic AMP, Isoproterenol, 心筋保護, Cardioplegia, 冠血管床の洗滌


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