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日外会誌. 82(2): 130-138, 1981


原著

バセドウ病における術後一過性テタニーの発生機序

信州大学 医学部第2外科(指導:降旗力男教授)

小林 信也

(昭和55年7月28日受付)

I.内容要旨
I 目的および方法
バセドウ病の外科的治療における重要な合併症の一つに術後血清Ca値の低下に由来する一過性テタニーがある.この一過性テタニーと甲状腺癌の全摘後にみられる永続性テタニーとの間に種々の相異点がある.そこで,バセドウ病における術後一過性テタニーの発生機序を究明する目的で, (1)バセドウ病の血清Ca,P およびA1-P 値について, テタニー群と非テタニー群の比較, (2)バセドウ病における上皮小体分泌予備能の測定, (3) カルチトニン(CT)負荷を行ない,その時の血清Ca値の変動よりバセドウ病におけるCT の感受性を測定, (4)バセドウ病の術後一過性テタニーの発生時における, 血清Ca,イオン化Ca と血漿中の上皮小体ホルモン(PTH)とCTの変動について検討した.
II 結果および結論
(1)バセドウ病においては,抗甲状腺剤の投与によりeuthyroid となつても,血清PおよびA1-p 値は健康人より高く,骨の代謝が亢進している.特にこの傾向はテタニー群に強く,非テタニー群に比べ血清PおよびA1-p値は有意(p<0.02,p<0.01)に高く, 術後一過性テタニーは骨の代謝が亢進している例に起きやすい. (2)バセドウ病のPTHは術前・術後を通じて低値を示す.上皮小体分泌予備能は,術前のeuthyroid の時でも正常に復していない例が多く,バセドウ病において術前と術後の間に有意差はなく,手術操作による上皮小体の損傷は少ない. (3)バセドウ病では術中より血漿CT が上昇し,特にテタニー例ではテタニー発作時またはその直前に血漿CT の急激な上昇が認められる.バセドウ病の未治療例は外因性CTに強い反応を示すが,術後例のCT 感受性において対照と比べ有意の差はみられない.
以上より,バセドウ病における術後一過性テタニーの発生に関して, 骨の代謝亢進とCT の放出が最も重要な要素と考える.

キーワード
バセドウ病, 甲状腺機能亢進症, テタニー, 外科的治療, 手術


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