日外会誌. 125(5): 462-467, 2024
手術のtips and pitfalls
食道胃接合部癌に対する胸腔内再建を考慮した術式
Ivor-Lewis手術
新東京病院 消化器外科 砂川 秀樹 , 岡部 寛 |
キーワード
食道胃接合部癌, 下部食道癌, 高位胸腔内食道胃管吻合
I.はじめに
当院では2cm以上の食道浸潤を有する食道胃接合部癌および頚部郭清を行わない胸部下部食道癌に対して低侵襲Ivor-Lewis手術を第一選択としている.本稿では低侵襲Ivor-Lewis手術時の再建操作に関して解説する.手術は腹腔鏡下胃管作成より開始する.左胃大網動静脈周囲の脂肪組織は胸腔内吻合部の巻き付けに使用するため胃脾間膜を可及的根部で切離することが肝要である1).また縫合不全率の軽減には胃管血流が良い部位で吻合することが重要であり,胃管の挙上性を良くするために胃後壁の生理的癒着部剥離・結腸間膜授動・十二指腸下行脚授動(Kocher授動)を行っている.腹腔鏡下に胃管を作成する際は右胃動脈の胃壁流入部を観察しその最終枝レベルから切離を開始するが,助手による愛護的操作で胃大彎を展開し緊張をかけることで一定径(4cm)の胃管を作成することが可能となる.胸腔鏡下に再建する際に重要なことは,適切な長さの胃管を作成する事である.胃管が長すぎると吻合部への血流不足が問題となり,さらに胃管のたわみは術後食渣停滞の原因にもなり得る.血流の良い位置で吻合するために腹腔操作で短い胃管を作成してしまうと食道に届かない可能性があるため,腹部操作では充分な長さの胃管を作成しておき,胸部操作で胃管を挙上して残食道と直線的に吻合できる位置を決定したのち,過不足の無い胃管長になるようトリミングする.また大動脈弓レベルより尾側での吻合は逆流症状が強くなると報告されており2),高位で吻合する事も重要である.吻合の際には,なるべく胃管と並行になるように第9肋間から自動縫合器を挿入しているが,吻合部までの距離が遠くなるため確実に吻合部まで届くようにポート越しではなく創部から直接挿入している.胸腔内へ胃管を引き上げる操作は,緊張具合を確認しつつ愛護的に行うため現時点では胸腔鏡下に直の腸鉗子を使用して行っている.高位での共通孔閉鎖は胸腔鏡下ではハンドリングが難しく体外結紮を用いていたが,ロボット操作下では容易に結節縫合が可能である.腫瘍の口側浸潤距離が長く腹腔側から食道切離を行わない場合は,胸腔操作時に検体を腹腔内に還納し胸部操作終了後に仰臥位で再気腹し検体を臍部創から回収する.
利益相反:なし
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