日外会誌. 125(4): 377-379, 2024
手術のtips and pitfalls
系統的肝切除のtips and pitfalls
Negative stainingによる系統的肝切除
藤田医科大学ばんたね病院 外科 加藤 悠太郎 |
キーワード
系統的肝切除, グリソン鞘アプローチ, Laennec被膜, Negative staining法, 蛍光ナビゲーション
I.はじめに
系統的肝切除は標的門脈支配肝領域を過不足なく切除する術式である.おもに肝細胞癌の経門脈的腫瘍進展に対する根治性向上と背景肝予備能への対応を満たす術式として普及し1),開腹手術のみならず腹腔鏡やロボット手術にも適用される2).本術式では切除すべき担癌門脈域の同定と視認は最重要ポイントである.臨床的には門脈2〜4次分枝支配領域の同定が問題となるため,本稿ではこの領域を扱う.
II.グリソン鞘アプローチ
肝門板より末梢の門脈2〜4次分枝支配肝領域は対応するグリソン鞘の支配領域と同義で,手技の安全性と普遍性から同領域の系統的肝切除では通常グリソン鞘一括処理を用いる.グリソン鞘の剥離は肝門部での鞘外到達法と肝実質破砕による肝内到達法に大別される.われわれは肝固有被膜であるLaennec被膜とグリソン鞘の間隙を剥離することで肝実質を破砕することなくグリソン鞘を肝外で確保する鞘外到達法を基本としている(図1)3).亜区域未満の鞘外到達法では,区域グリソン鞘を肝外確保してこれを尾側に牽引して末梢の亜区域グリソン鞘を引き出したり,直接的確保が難しい場合にはいわゆる「引き算」を利用することがコツである(図2).一方intersegmental planeやグリソン鞘に到達しやすい面で肝実質を一部離断し標的グリソン鞘を確保するのが肝内到達法である.
III.Negative Staining法
上記いずれかの方法で確保したグリソン鞘を遮断して得られる阻血域が系統的な切除肝領域である.とくに肝外グリソン鞘アプローチでは肝実質切離開始前に阻血域が正確に確定できる.変色域を切除するよう肝切離を行うが,通常観察では,肝硬変で変色域自体が不明瞭であったり,深部での色調変化が視認できない場合がある.一方,責任グリソン鞘遮断後にindocyanine green (ICG)を静注して(当科では0.025mg/kg),ICG蛍光検出機器や腹腔鏡やロボットに装備された蛍光検出モードを用いると,阻血域が蛍光陰性域として鮮明に視認でき(図3),また肝切離中の深部での阻血域と非阻血域との境界はより明瞭化する.一方,隣接肝領域からの動脈血交通路や肝静脈逆流血を通してICGが流入し不染域が継時的に縮小する症例もあり,不染域のみに依存した肝実質切離では不十分な切除になる場合がある.領域境界の肝静脈を露出することで過不足ない系統的肝切除が可能となる(図4).
IV.まとめ
Negative Staining法に基づく系統的肝切除では,標的グリソン鞘の安全かつ正確な剥離・遮断が必須である.本法は正確な系統的肝切除を可能にするとともに,とくに肝外グリソン鞘アプローチでは早期に担癌門脈域血流を遮断できる腫瘍学的利点が期待される.
利益相反:なし
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