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日外会誌. 125(4): 302, 2024

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特集

肺癌外科診療 up to date

1.特集によせて

藤田医科大学医学部 呼吸器外科学

星川 康



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国立がん研究センターの最新がん統計によると,2022年の日本人の癌死385,797人のうち第1位が肺癌死で,癌死の約20% (76,663人) を占める.一方,2019年の日本人の癌罹患数999,075人の約1/8 (126,546人) が肺癌で,癌罹患数の第2位である.Ⅰ期,Ⅱ期およびⅢA期(の一部)の肺癌に対する治療のmainstayは外科的切除である.2020年1年間に本邦で45,436件の肺癌に対する手術が施行され,このうち75% (33,992件)がvideo-assisted thoracic surgery (VATS, 胸腔鏡を用いた小さな創からの手術) によるものであった.近年の肺癌手術の進歩・変化は著しく,従来ひろく行われその技術が進歩してきた3~5ポートによる多孔式VATSから,reduced-port VATS,特に3~4cmの一つの創のみから行う単孔式VATSに移行する施設が増えつつある.一方ロボット支援手術の普及はさらに顕著で,良好な視野・操作性を背景に気管支形成や血管形成,隣接臓器合併切除を併施するようなより高難度の手術に関する報告もみられるようになった.また,長年米国製ロボット一強であった市場において,国産を含め複数の新規手術支援ロボットが上市され呼吸器外科手術の薬事承認に向けた動きが加速している.
肺癌に対する標準術式は,米国Lung Cancer Study Groupのランダム化比較試験結果の1995年報告をもとに長年肺葉以上の切除(+肺門・縦隔リンパ節郭清)であったが,JCOG0802/WJOG4607Lをはじめとする近年の小型肺癌に対するいくつかのランダム化比較試験結果を受け,一定の条件を満たす小型肺癌に対する楔状切除,区域切除といった縮小手術が著増している.ただし,縮小手術に際しては,触知不能小型肺癌の部位同定,局所再発をきたさないよう十分な切離縁を確保するための方策,区域切除術中切離すべき血管・気管支,温存する血管・気管支,区域間を正確に同定するための,術前からの3次元シミュレーションなど多数の技術的な課題が明らかとなり,3D医用画像処理システムや病変・区域間マーキングシステムの開発が急ピッチで進められている.
近年進行肺癌に対する良好な治療成績が示され臨床使用されている免疫チェックポイント阻害剤やチロシンキナーゼ阻害剤を併用した術前術後治療に関するエビデンスも急速に蓄積されてきており,局所進行肺癌に対する新規薬剤を用いた治療後の難易度の高い肺切除術に関する経験・知見の報告もなされている.
本特集では,肺癌外科診療の各領域の第一人者に,近年の進歩と課題,今後の展望についてご執筆いただいた.

 
利益相反:なし

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