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日外会誌. 125(4): 295, 2024

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Editorial

働き方改革時代におもうこと

順天堂大学医学部附属練馬病院 小児外科

田中 奈々



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先日,中学2年の娘に,人生やり直せるならいつに戻りたい?と聞かれた.高校時代に戻って医学部以外に進むか?それとも,外科研修を選ぶ前か?小児外科を選択する前か?
医師の時間外労働の制限を主軸とした医師の働き方改革が来月からいよいよ本格的に導入されようという2024年3月末日,文字通りレジデント(居住者)として病院に入り浸りだった外科研修医時代に想いを馳せながら,この原稿を書いている.巷では,昭和から令和にタイムスリップした設定で両者のコンプライアンスギャップを面白おかしく描いてるドラマが好評だ.セクハラ,パワハラ,なんでもハラに多様性,働き方改革の矛盾など,窮屈な現在社会に昭和の視点から気づきを与える内容だ.医師の世界も,私の研修医時代と現在では大きく変化した.とにかく長時間病院にいたが,今思えば無駄と思える時間も多かった.電子カルテならば数分で終わる術前カンファレンスの準備のため,資料を求めて外来やらカルテ室やらを夜中に行き来したり,採血検査結果を温度板に書き写したり(ご丁寧に異常値は赤にしたりして),誰よりも先にみようと出来立てのまだ温かいレントゲン画像をせっせと運んだ時間を,フィルムをカシャーンとシャーカステンにかける音とともに思い出す.雑務も必死にこなしていると上級医師からの指導を受け学べるチャンスも増え,ご褒美としての執刀経験があった.決して人間らしい生活ではなかったが,充実した時間だったと今愛おしくさえ思えるのは,日々自分の成長を感じられたからだろう.
働き方改革により,若い外科医が働きたくても働けず,技術や経験を得るのに時間がかかると懸念する声がある一方,現代は,より効率的に働き,学べる手段が豊富なのも事実だ.手軽に情報収集ができ,国内外の外科医の手術動画を何度でも見ることができる.今の学生は,ロボット手術のシミュレーターをさせると瞬く間に上達するし,パワーポイントでのプレゼンテーションなどお手の物だ.指導する側も変化を求められている.教育スタイルは変われど,外科医として目指すべきものは変わらないように思う.
結局のところ,人生やり直すなんて御免である.せっかく得られた経験を失うのはもったいない.入局してすぐの頃,患児の親御さんに「若い女医さんでなく男の先生に診てほしい」と言われた時,年齢+10歳に見える同期(男性)を羨ましくも思い(褒めてます!),早く貫禄のあるおばちゃんになりたいと思った.その時に描いたおばちゃんの歳になっても,日々自分の未熟さを感じながら,なりたい小児外科医像を目指して働けていることは幸せなのかもしれない.
人生やり直したくもないし,やり直してもまた同じ道を選んじゃうかな,と答えると,娘につまんなーいとそっぽを向かれた.医療経済,病院経営,先人達が築いてきた日本の医療の質の担保など,多くの問題を抱える働き方改革の時代をどう生き抜くのか,教育する側もされる側も試されている.若い外科医が自身の成長を感じながら後悔なく生き生きと働け,子供たちの未来が明るくあってほしいと願う.

 
利益相反:なし

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