日外会誌. 125(3): 290-293, 2024
印象記
2023 Japan Exchange Fellowとして第109回ACS会議参加および米国施設見学
浜松医科大学 外科学第二講座 坊岡 英祐 |
キーワード
Japan Exchange Fellow, ACS会議, 米国施設見学
I.はじめに
日本外科学会より2023 Japan Exchange Fellowとして選出して頂き,第109回American College of Surgeon (ACS)会議への参加および米国施設見学という極めて貴重な機会を与えて頂きました.ここに感謝の意を込めて謹んで印象記を報告させて頂きます.
II.第109回ACS Clinical Congress
第109回ACS Clinical Congressは2023年10月22日から10月25日までの4日間,米国Massachusetts州BostonにあるBoston Convention & Exhibition Centerで開催され,レセプションなどは隣のWestin Seaport Hotelで行われました.
まず初日は有料($795)のPostgraduate Courseである「MIS Maters Course : Advanced Minimally Invasive and Robotic Techniques for Emergency General Surgery」にExchange Fellowの特典として無料で参加させて頂きました.米国ではロボット支援手術が一般化しており腹腔鏡下や胸腔鏡下は少なく,緊急手術を含めほとんどの手術がロボット支援で行われているようでした.やはり縫合手技がロボット支援の方が容易で明らかにロボット支援手術が上回るということでした.また腹腔鏡下や胸腔鏡下では術野に最低3人が必要ですが,米国のロボット支援手術はソロサージェリーで行うことが一般的で機械の出し入れも看護師が行うため術者1人で手術が行えるため人手不足の解消にも繋がっていました.日本も働き方改革としてこのような方向に進んでいくのかもしれません.そして女性外科医の多さに驚きました.演者の半数は女性で聴衆も約4割が女性でした.本年の第123回日本外科学会定期学術集会にACS PresidentのDr. Chris Ellisonが参加され,女性外科医の少なさに驚かれたようですが,私はACSに参加して全く反対の印象を受けました.近い将来,日本の女性外科医が増加することを期待しております.
初日の夜はFellow of ACS (FACS)の表彰式であるConvocationにGuestとして参加させて頂きました.大変厳かな雰囲気でFACSに対する憧れも強くなりました.私は本年FACSに申請させて頂いたので,来年のConvocationに参加出来ることを楽しみにしております.
2日目は早朝からOpening Ceremonyに他のInternational Exchange Fellowとともに壇上で参加させて頂きました(図1).Convocation同様に厳荘な雰囲気のceremonyでありスクリーンで名前を表示して表彰して頂き,大変光栄でした.昼食は「Donors Recognition & International Scholars & Travelers Luncheon」に参加させて頂きました.ACSでは個人からの寄附金も多く,donorとscholarを結びつける会ということで私たちの活動はこのような篤志家のサポートによって支えられているということを再認識致しました.スケジュールの空いている時間はUpper GIのセッションを中心に聴講致しましたが,divorceに関するセッションなどもあり日本とは少し違った学会の雰囲気を味わうことも出来ました.夜は「International Reception」および「ACS Japan Chapter Networking Event」に参加させて頂きました.Japan Chapterでは日本からACSに参加されている先生や,本年FACSになられた先生が参加されており,大変貴重な交流の場となりました.
3日目は「International Relations Committee Meeting」に参加させて頂きました.このmeetingではchairmanのProf. Nader Hannaを中心にACSの国際活動やscholarshipの支援について各国の代表者を交え議論されておりました.ACSが外科医を教育する様々なプログラムの中で発展途上国の外科医の教育にも力を入れており,scholarshipが発展途上国の若手外科医にも重要な役割を果たしていることがよく分かりました.
最終日は各国のInternational Exchange Fellowが集まる「The ACS International Scholars & Travelers 2023 Session」に参加させて頂きました.本sessionでは各国から集まったexchange fellowが自国の医療状況や外科医教育について発表されていました.発展途上国では外科医の主な役割は外傷外科であり,腫瘍外科の教育はまだまだ不十分であるという印象を受けました.様々な医療状況の各国からscholarshipを獲得しACSに参加された若手外科医と交流を深め,議論する大変貴重な機会を頂きました.
III.施設見学 MD Anderson Cancer Center, Department of Surgical Oncology
BostonからTexas州Houstonに移動して,10月26日から10月30日までMD Anderson Cancer Centerで研修させて頂きました.本研修につきましては,様々なコーディネートを行って頂いたDepartment of Surgical Oncologyの生駒成彦先生,滞在中のアテンドを行って頂いた慶應義塾大学一般・消化器外科から留学中の平田雄紀先生に心から御礼を申し上げます.MD Anderson Cancer Centerは全米屈指の癌センターでテキサス州のみならず全米から癌患者が集まってきています.MD Anderson Cancer Centerでは患者が飛行機で受診することも珍しいことではなく,術前化学療法は地元で行い,手術をMD Anderson Cancer Centerで行うこともあるそうです.今回は生駒先生の外来と手術を中心に見学させて頂きました.外来は患者と家族が個室で待機し,そこに医師が伺って診察するという形式でした.米国ではNurse practitioner (NP)やPhysician Assistant (PA)の制度がしっかりと整備されており,医師の診察前に患者の問診から検査結果の確認,次回の予約までほぼ全てが完了しており,医師は患者と面談しNPやPAの準備した資料を確認するのみといった印象でした.また胃癌や膵癌の術後患者では栄養士がしっかりと栄養指導を行っておりました.患者は個室でNPやPAがしっかりと時間をかけ問診を取ってくれ最終的に医師の面談を受けられるため,大変満足度が高いそうです.米国では医師の行う仕事は専門性の高いものに限られており,今後日本でも医師の働き方改革を考える上で重要な概念だと思われました.
生駒先生はMD Anderson Cancer Centerで胃癌と膵癌の手術を専門にされておりますが,今回は胃癌の手術を中心に見学させて頂きました.ダビンチXiが8台,SPが1台と非常に多くのロボットを所有しており,ほぼ全ての手術はロボット支援に行われるということでした.今回は胃癌に対するロボット支援幽門側胃切除術を見学いたしました(図2).米国では朝が早く,患者は7時に手術室に入室で8時に加刀でした.また驚くことに当日の5時半に入院で,術後在院日数(中央値)は胃癌で3日,膵癌で4日ということでした.いかに在院日数を減らし病床の回転率を上げるか工夫されていましたが,文化の違いもあり日本での導入は難しいかなと感じました.ロボット支援手術はデュアルコンソールで行われており,生駒先生が視野展開をされた状況でfellowが執刀されていました.アノテーションも上手く使用されており,今後の日本で導入されるべき教育法だと感じました.
休日は平田先生にNASAに連れて行って頂いたり,生駒先生にご自宅でホームパーティーを開催して頂いたりと大変充実したヒューストンでの研修となりました(図3).
IV.おわりに
このような名誉ある大変貴重な機会を与えて頂きました湊谷謙司教授をはじめとする日本外科学会国際委員会の先生方,International Exchange FellowとしてACS参加の様々なご準備をして下さったACS担当秘書のMr. Tony Ortiz,充実した施設見学をコーディネートして下さった生駒成彦先生に誌面をお借りいたしまして深く感謝申し上げます.またJapan Exchange Fellowの応募に際し,ご推薦を賜りました浜松医科大学外科学第二講座 竹内裕也教授をはじめ不在中を含めご支援頂きました医局員の先生方に心より感謝申し上げます.
今回の貴重な経験を生かして,国際交流を深め,今後の日本外科学会の発展に尽力致します.
利益相反:なし
PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。