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日外会誌. 125(3): 237-243, 2024

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特集

Acute Care Surgeon―その活躍の場―

7.Surgical rescueにおける活躍

島根大学医学部 Acute Care Surgery講座

渡部 広明 , 下条 芳秀

内容要旨
外傷外科,救急外科,外科的集中治療の三つの領域から始まったAcute Care Surgeryは,新たにsurgical rescueを取り込み領域が拡大している.Surgical rescueは様々な治療の結果発生する合併症に対する外科的救済処置を意味し,これらの処置により患者の生命を維持する重要な役割を持つ.この対象は,外科診療科にとどまらず,院内のあらゆる診療科において発生し,また院外で発生したものも対象とされる.わが国におけるsurgical rescueの研究報告はほとんどなく,その実態は明らかではない.海外における疫学的研究では,入院患者の約13%がsurgical rescueの対象とする報告もあり,決して少ない疾患群ではない.合併症発生率は医療機関ごとの差はないものの,患者の救命率には大きな差があり,この差はAcute Care Surgeryモデルの確立と的確な早期手術介入達成の有無に依存している.この治療介入における死亡例であるfailure to rescueを減らすためには,患者の病態変化を早期に認知して,外科的治療介入の遅れを生じさせないことが重要となる.このためにはrapid response systemを外科的なものに適応したsurgical rapid response systemを院内に確立して早期の手術介入が可能な体制を構築する必要がある.Surgical rescueは外傷や救急外科と同様に急性期病態であり,これに精通するacute care surgeonが対応することは理にかなっている.Acute care surgeonのもつ急性期外科的能力を院内で有効に活用することでfailure to rescueを減少させることができると考えられる.Surgical rescueはAcute Care Surgeryが活躍できる重要な領域の一つである.

キーワード
Surgical rescue, failure to rescue, surgical rapid response system, acute care surgery, 早期外科的医療介入

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I.はじめに
当初,Acute Care Surgery(ACS)は,外傷外科,救急外科,外科的集中治療の三つの柱で構築された新たな外科診療分野として登場した.その後,米国においては急性期外科領域における治療管理は,定時手術elective general surgeryの原則と同じであるという考え方から,定時手術がACSの第4の柱と捉えられるようになってきた1).本来的にACSの担うべき領域が急性期の外科領域であるという点からすると,acute care surgeonの価値というものは,time-sensitive surgical diseaseにおける専門外科医集団であると言っても良い2).事実,ACSモデルを確立した施設における研究では,急性胆嚢炎や急性虫垂炎などの典型的ACS症例の手術成績や在院期間などが短縮したとする報告が複数みられており3)6),そこには新たな外科専門領域の効果をみることができる.
一方,様々な侵襲的治療に伴い発生する合併症もまた急性期外科的病態の一つと捉えることができる.特に,術後合併症を伴う患者の病態は一刻を争うケースも含まれることから,acute care surgeonの急性期外科的能力をこの病態に活用すべきである7)という考え方が生まれたのは必然とも言える.こうした背景から合併症からのrescueを行う医療介入であるsurgical rescueがACSの五つ目の柱として確立してきた(図17).本章では,ACSが担うsurgical rescueの領域について解説し,acute care surgeonが果たすべき専門的役割について述べる.

図01

II.Surgical rescueとは
Surgical rescueは,日本Acute Care Surgery学会が監修するAcute Care Surgery認定外科医テキストには,「外科手術・処置による合併症に対する迅速な救済処置」と定義されている8).特に,患者の生命を脅かす合併症に対して,死を回避するための外科的医療介入と表現することもできる.
当然ながら,この救済処置を行うために必要とされる外科的処置や集中治療,さらにはinterventional radiologyなどもこれに含まれる.Surgical rescueが対象とする領域は広い.術後または手術に限らない侵襲的治療に伴う合併症となると,消化器内視鏡による消化管穿孔など,外科診療科で発生した合併症にとどまらない.従って,surgical rescueのフィールドは外科診療科に限らず、院内あらゆる診療科で行われる侵襲的治療後の合併症を包括することになる.
また,この対象は院内に限ったものではない.海外の多くの研究においては,地域の医療施設において発生したものもその対象であるとされており7),ACSを担う医療機関はその管轄地域の医療機関で発生したsurgical rescueも対象と考えるべきである.Peitzmanらは,surgical rescueの対象の50%が院内の他の診療科で発生し,25%が自診療科,25%が地域の医療機関からのものであると報告している7).合併症の発生率は医療機関ごとの差はさほどないものの,重篤な合併症の救命率には施設間格差が大きく9),ACSモデルの確立した施設の治療成績が良いことが報告されている.ACSの体制が整備された医療機関は地域のsurgical rescueの拠点としての役割も期待されている.

III.Surgical rescueの重要度と必要性
Surgical rescueの重要度を考える上では,この疫学的調査データが重要となる.米国の疾病予防管理センターの疫学的データによると,米国全土で約3,600万件を越える入院患者のうち,約90万件以上が内科的治療または外科的治療の合併症に関連した疾患を抱えていることが知られている1).前述のごとく,重篤な合併症の発生頻度は医療機関ごとの差はないが,死亡率の差は大きく,この能力の差は迅速かつ適切に患者への外科的医療介入ができる能力に依存しているとする報告は少なくない9)13).米国の疫学研究ではあるが,重篤な合併症を抱えた患者の死亡率を検討すると,高死亡率医療機関のものは低率な医療機関に比して死亡率が約2倍高いことが報告されている(21.4% vs. 12.5%, p<0.001)9).これはsurgical rescueのスキルの高い医療機関が高い救命率を示すというデータであり,重篤なsurgical rescue症例を救命するためには,これを専門的に取り組むことが重要であることを示している.残念ながらわが国においては,surgical rescueの疫学的調査報告は皆無であり,その現状は明らかにはなっていない.そのため,surgical rescueを理解するためには現在のところ海外の文献よりこれを学ぶしかない.
Surgical rescueの発生頻度に関する研究がある.米国における疫学研究であるが,約2,400の患者を対象としたもので,入院患者の13%がsurgical rescueの対象であり,その内訳として術後は85%,内視鏡を含む処置によるものが15%であると報告している1).この数値は無視できるものではなく,これを専門的視点で取り組むことの必要性を読み取ることができる.

IV.Failure to rescueについて
上述のような疫学的データからみえてくるのは,surgical rescueを必要とする症例は必ずしも少なくはなく,こうした患者群に対する的確な外科的医療介入が患者の救命率に向上することを示している.Surgical rescueが的確に実施されているのかという質の評価のための指標として,近年failure to rescueが注目を集めている9).Failure to rescueとは,術後合併症を含むsurgical rescue症例の死亡を意味する.Failure to rescueの主な要因としては,迅速に適切な治療介入がなされなかったことや集中治療室での診断や治療の遅れなどが挙げられている.手術介入の遅れは当然としても,集中治療領域での介入遅延も大きな要因とされている.特に,鎮静薬の使用,人工呼吸管理中,せん妄などの精神的要因などがあるために,適正な身体所見が正しくとれないことから53%の患者の初期対応に支障を来しているという報告もある14)
Failure to rescueを減らす取り組みとしては様々なものが挙げられている.この中でも重要視されているのは,患者の病態変化を早期に認知し,外科的医療介入の遅延を回避することである.そのためにはこれを達成するための院内システムの構築が必要とされている.近年院内急変対応のシステムとしてrapid response system(RRS)の取り組みの効果についての報告がみられる.このシステムとsurgical rescueの介入をリンクさせたものが,surgical rapid response system (surgical RRS)である15).RRSは本来,疾病等により状態が悪化した患者に対して迅速な治療を開始するための早期介入システムであるが,これを外科的観点から考えるのがsurgical RRSである.Surgical rescueを専門とするacute care surgeonがこれを担うことにより,迅速で的確な早期外科的医療介入の実現に貢献することが期待されている.

V.Surgical rescueの代表的疾患群とその対応
Surgical rescueを必要とする病態は多岐にわたる.この中でも代表的疾患としては,術後腸閉塞,術後縫合不全,腹膜炎,膿瘍形成,急性腸間膜虚血,大量出血,消化管出血,腹部コンパートメント症候群などが挙げられる(表18).それぞれの疾患はいずれも急性腹症などで外科医としては馴染みの深いものが大半である.いずれもfailure to rescueを生じないための重要なポイントは,早期外科的医療介入の遅延を生じないことである.術後腸閉塞も介入が遅れれば敗血症から致命傷となることもあり,必ずしも侮れない病態である.また術後縫合不全も保存的か手術的かの判断を誤ると重篤化するケースは少なくない.重要とされるのは,早期外科的医療介入をどのタイミングで行うのかを明確に意志決定できる能力といっても良い.すなわち,正しい戦略決定というdecision makingをできることが重要である.重篤な病態を伴う患者へのdecision makingはacute care surgeonの基本的能力の一つであり,これを専門とするacute care surgeonがsurgical rescueを担うことの意味は大きいと考えられる.

表01

VI.島根大学でのsurgical rescueの取り組みとその役割
Surgical rescueをacute care surgeonが主導して行う取り組みについて紹介する.当院でも,院内全体の急変対応についてRRSを構築して取り組んでいる.このRRSをacute care surgeonが行うことで内科的や外科的なものの隔てなく急変対応することが可能となり,早期外科的医療介入のタイミングを逃さない体制としている.言うなれば,内科系のMedical emergency team(MET)16)と外科系のsurgical RRT15)が融合した形のRRSと位置づけることもできる.
当院のRRSは,救急部門等を統括する救急・集中治療調整管理センターEmergency Critical Care Operations Center (ECCOC)の下部組織である,院内救急・合併症対策支援センターが所管する院内急変対応システムである.RRSは,急変対応の初期対応を担当するrapid response team (RRT)と急変治療後に病棟へと復帰した患者のフォローを行うCritical Care Outreach team (CCOT)から成る.今回は前者のRRTの活動について説明をする.
RRTを構成するメンバーは,acute care surgeonと救命救急センター看護師,院内救急救命士で構成されている.病棟を含む院内の各部署で患者の急変が発生した場合は,専用連絡先(RRTホットライン)に出動要請をかければ,チームが直ちに参集する仕組みとなっている.当院雇用の救急救命士は,現行法においては救命救急センターでのみ救命処置が認められていることから,病棟急変時には物品搬送や記録など救命処置以外の補助業務のみとしている.病棟での急変をいち早く認知し,また救急対応に不慣れな職員であっても自信を持ってRRTをオーバートリアージで要請してもらえるように,わかりやすい要請基準を作成している(図2).要請基準の基本は,患者生命に危機をもたらす,気道,呼吸,循環,意識の四つの異常であり,これらを具体的数値で規定した.さらに急激な病態変化など明らかに様子がおかしいなど,感覚的に異常であると感じる場合も要請をかけても良いルールとしている.
RRT要請の中に外科的医療介入を必要とするものが含まれており,acute care surgeonが急変現場に駆けつけることで,いち早くその必要性を認知することで手術開始の前倒しが可能となる.特にsurgical RRSは内科系診療科においても発生しており,各診療科医師が診察してから外科的治療のコンサルトをするという一般的手順に比して,明らかに本システムの方が手術介入は速くなる.こうしたRRT活動をacute care surgeonが初動で担うことにより,failure to rescueの減少が期待されている.

図02

VII.おわりに
Acute care surgeonが担うべきsurgical rescueについて解説した.Surgical rescueはACSの新たな柱としてわが国でも認識されており,acute care surgeonの本来業務の一つと言える.従来術後合併症には手術を行った外科医が対応してきたが,これを専門的に対応する外科の領域が新たに認識されてきたといってもよい.外科学が専門分化する中で,外科学の急性期全領域を広くカバーし,それに対応する領域がACSでもある.まだわが国ではACSが外科として確立した施設はそう多くはない.院内でこの領域が確立すれば,外科医の負担軽減にもつながり,今後働き方改革を推進するためにも重要性を増してくると思われる.ACSが得意とする救急対応能力を術後合併症などに代表されるsurgical rescueに活用することは理にかなっており,acute care surgeonがsurgical rescueの専門家として院内で活躍することが今後わが国でも期待される.

 
利益相反:なし

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文献
1) Kutcher ME , Sperry JL , Rosengart MR , et al.: Surgical rescue: The next pillar of acute care surgery. J Trauma Acute Care Surg, 82: 280-286, 2017.
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