日外会誌. 125(2): 183-190, 2024
手術のtips and pitfalls
腹壁瘢痕ヘルニアに対する腹腔鏡下メッシュ修復法のtips and pitfalls
腹膜外腔メッシュ挿入法
聖路加国際病院 消化器・一般外科ヘルニアセンター 松原 猛人 , 嶋田 元 |
キーワード
腹壁瘢痕ヘルニア, 腹腔鏡, eTEP, TAR, 腹横筋リリース
I.はじめに
近年,腹腔鏡下腹壁瘢痕ヘルニア修復術は二つの大きなパラダイム・シフトを迎えた1).
一つは,テンションフリー修復術の概念からの脱却である.そもそも,腹壁瘢痕ヘルニアの本質は腱膜の損傷による腹壁不全である.従って外側に変位した腹壁の筋群を本来の解剖学的な位置に戻し,失われた生理学的なテンションを取り戻す腹壁再建(ヘルニア門縫合閉鎖)は必須の手技といえる.
二つ目はメッシュの修復層である.技術の進歩によって癒着防止加工のされた腹腔内留置メッシュが開発されたが,メッシュと腹腔内臓器の接触による癒着や瘻孔形成,腸閉塞などの合併症が懸念されてきた.実際,デンマークの質の高いコホート研究において,腹腔鏡手術の約5%弱の症例で長期的には手術介入を要するような重篤なメッシュ関連合併症が発生することが示され,メッシュ使用による再発率の低下は,メッシュ関連合併症によって相殺されることが明らかになった.腹腔内メッシュによる合併症を避けるため,腹腔内から腹膜外腔へメッシュを留置する新たな術式であるenhanced-view totally extraperitoneal mesh repair(eTEP)が注目されるようになった.
eTEPは内視鏡下腹膜外アプローチで腹直筋後腔にメッシュを挿入し,ヘルニア門の縫合閉鎖を行う術式であることから,endoscopic Rives-Stoppa法とも称される.ヘルニア門が大きく縫合閉鎖が困難な場合,腹横筋を切離し,腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋からなる神経筋皮弁を正中側に移動させて腹壁再建を行う腹横筋リリース(transversus abdominis release:TAR)を追加する必要がある.
しかし,腹膜外腔にメッシュを挿入する術式はIPOMと比較して剥離範囲が広範となり,加えて腹膜縫合や腹壁縫合という本疾患特有の高難度手技が存在するため,相対的に手術時間は長くなるデメリットがある.また,これまでIPOM法では認められなかった,腹膜・後鞘の縫合不全(posterior layer break down)や白線・半月線損傷による医原性ヘルニアなどの重篤な合併症や,神経損傷による筋委縮も報告されている2).従って,本術式の導入に際しては縫合技術のみならず,腹壁解剖への深い造詣が必須である.
本稿では,eTEP Rives-Stoppa,腹横筋リリース(transversus abdominis release:TAR)を行う上で必要となる臨床解剖(pretransversalis layerとpreperitoneal layer,横筋筋膜(transversalis fascia)と筋上膜(epimysium)・筋周膜(perimysium)の関係など)と手技のコツについて解説する3).
利益相反:なし
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