日外会誌. 125(2): 101-103, 2024
誰もが輝ける外科の未来へ
誰もが輝ける外科の未来へ―Diversity, Equity そしてInclusionの実行を―
ハワイ大学がんセンター,日本外科学会ダイバーシティ推進委員会委員 山内 英子 |
キーワード
ダイバーシティ, エクイティ, インクルージョン
I.はじめに
Diversityダイバーシティ(多様性),Equityエクイティ(公平性),Inclusionインクルージョン(包括性):DEIは,今まさに,すべての医療機関が取り組むべき重要な課題である.DEIを達成することは,医師自身やその職場環境の改善のみならず,患者のためにもなる.
Gomezらは,1999年以降に発表された16の多様性と質に関するメタアナリシスや大規模研究のレビューにおいて,多様性と質,財務実績の間に正の関連があることを実証した1).特に,ヘルスケアに関する研究では,より多様性のあるチームによってケアが提供された場合,患者の治療成績が向上し,専門的なスキルに焦点を当てた研究では,多様性により,イノベーション,チームコミュニケーション,リスクアセスメントの改善が認められたとしている.また,財務パフォーマンスも多様性の増加とともに改善したと報告している.
外科医不足が懸念されているいま,DEIのととのった環境では,定着率が高く,離職率が低いことも証明されており,まさに日本外科学会が取り組んでいくべき課題であると認識する.
II.Diversityダイバーシティ(多様性)
多様性とは何を意味するのであろうか.多様性は外面的な違いとしてあげられる人種,民族,性別にとどまらず,障害の有無,思想,経験,年齢なども含む.DEIで明らかに取り上げられることが多いのは,男女比であることは否めない.米国でも一般外科医女性割合はわずか22.6%であり,さらなるスペシャルティでは,神経外科医(9.6%),胸部外科医(8.3%),整形外科医(5.9%)とさらに低くなっている2).しかしながら,男女という二様性のみでなく,多様性の概念に基づいて進めていく時代である.そこには,対局のみを見るのではなく,また人々を二分するのではなく,個々の人格を尊重する思いが必要であろう.
III.Equityエクイティ(公平性)
多様性に関係なく,誰もが平等に扱われることを示すEqualityイコーリティー(平等)とは異なる.Equityエクイティ(公平性)とは,誰もに平等に機会を与えるために,その多様性を理解し,それに基づいて必要な資源や機会を配分することにある.例えば,図1にあるように,身長の違う3人が塀の向こうで行われているスポーツを観戦しているときに,三つの足台がある3).1人に一つずつ平等に足台を与えても,それぞれの身長によって,それでもとどかないものも出てくる.皆が公平に観戦できるように三つの足台を一番小さい者に二つ,その次に一つと,それぞれにあった足台を与えるのがEquityエクイティ(公平性)である.
IV.Inclusionインクルージョン(包括性)
多様性を謳って採用を考慮したり,ポジションを与えるときに考慮しても,それをサポートする体制がないと,結果的にさらに悪い結果になることもおこりうる.組織として,その体制をどのように作り,風土を作っていくかは大切である.皆で学んだり,またメンターシップも大事であるといえる.Inclusionインクルージョン(包括性)は,そもそも塀をなくし,そしてさらには,人々を自分の組織に加え入れ,応援する人も一緒にチームとして組み入れるところまでが大事である.
V.おわりに―DEIの実現にむけて―
DEIの実現に向けては,まずは,われわれが学ぶ努力が必要であろう.組織での勉強会やさまざまな多様性からの意見を聞くこと,それを組織のトップがリーダーシップを持って行い,組織風土を変えていくことが重要であろう.その話題を避けたり,失敗を恐れて,インクルージョンに歩み寄らないことも多く見受けられるが,失敗をおそれないことも必要であると思う.その失敗から多様性を認め,どのようにしたら公平性を保てるかを検討すべく考えるというトレーニングによって,組織が成長していくのではないだろうか.われわれ医療者は,患者を見る時,その相手に最適の手術を考える時,患者の望むべき姿を想像することによって,最大限の成果が引き出される経験をしている.それと同じように,相手の多様性に想像力を働かせ,理解を深めることが大事である.自分が常に一部しか見えていないことを意識して,相手の立場に大いに想像力を働かせて,常に謙虚にいることが,ひいては,患者に対してもそのような思いで対応できることになるのではないだろうか.バランスの取れた,DEIへの理解が欠かせない.特にヘルスケアの領域では,世界的にHealth Equityを目標に上げている中で,医療現場でequityが医療者たちに提供されていなければ,その実現を推進することすら難しくなる.失敗することを恐れず,皆で学んでいく姿勢がもとめられている.
利益相反:なし
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