日外会誌. 125(2): 95, 2024
Editorial
学術集会の費用対効果
東北大学大学院医学系研究科 心臓血管外科 齋木 佳克 |
COVID-19 pandemic収束を受け本来の学術集会が戻り,会員諸氏は何を感じ,そして,何を将来に見据えているであろうか.本稿では費用対効果という観点から学術集会を考察したい.
まず海外に目を向けると,参加に伴う費用額の高騰を目にし,浦島太郎のような気持になる.主学会の参加費は軒並み十数万円を超え,不幸にして時期が重なったウクライナ危機や中東情勢の不安定化による航空運賃の高騰化と移動時間の延長は重くのしかかる.さらに,海外との消費者物価感覚の大きなギャップは埋めきれない危険水域を越えたのではないか.北米の医師にとり参加費高騰はそれほど痛くはないかもしれない.翻って,日本の外科医にはどうであろうか.参加のための渡航費,宿泊費,参加費,参加中の諸費用は大きな負担となっているに相違ない.それでも,参加による“reward”があれば心理的にも実質的にも報われる.しかしながら,必要な諸費用と対価としての効果は,バランスが取れない状況にいたった,という危機感を覚える.
一方で,国内の学術集会ではいかがであろうか.参加費は海外学会の10分の1程度で安価である.しかし,年会費を納めた上で学術集会参加費を支払っている.しかも,通常診療がある中で,会期中全日程の参加が叶わない場合も多い.費用対効果の面でどうか,という命題が上がる.
さて,学術集会主催者側からの視点ではどうであろうか.集会を経済的に成功させるためには多くの参加者を集め,多くの企業および関係団体からの共催金を募る必要がある.前者は魅力あるプログラムを構成し,また,参加クレジットを付与すること等で達成されるものの,後者については近年状況が厳しい.学術集会開催費用が嵩む理由は会場費と学術集会運営企業(PCO:Professional Congress Organizer)へ支払う費用の高騰にある.この状況の改善のためには,PCOの運営様態にメスを入れ,運営費を効率的に削減するしか目下の手立てはないように思える.工夫としての処方箋はいくつかあるが,大切なことは学術団体が横並びで歩調を合わせることである.既にPCO各社間で“歩調を合わせている”動きはあり,学術団体は後れを取ってはいけない.
もう一つ大切な視点,それは,費用対効果の効果を高めることである.最新の知識を得る,研究活動へのフィードバックを得るなどの測定可能な実質的効果を高める必要があることは言を俟たない.しかしそれ以上に大きな意義を持つのは,参加者の心が満たされる,達成感が得られることの効用ではなかろうか.そのために欠くことのできないものは,発表者に対する他者からの承認,アクノレッジメントである.それがあれば,次また頑張って参加しよう,という気持ちが誘導される.オンライン開催の期間に無かったものは,発表後や討論後の拍手である.スクリーンに向けて,特に,ミュートされている状態での拍手は難しい.優れた学術発表に対してお互いに称えあってこそ費用対効果を上げられる.
利益相反:なし
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