日外会誌. 125(1): 82, 2024
手術のtips and pitfalls
小児単純先天性心疾患開心術のアプローチ法
「小児単純先天性心疾患開心術のアプローチ法」によせて
順天堂大学 心臓血管外科 川﨑 志保理 |
成人心臓血管外科領域においては,消化器外科領域に引き続き,弁膜症疾患に対する低侵襲手術の一環として内視鏡下心臓手術が多くの施設で行われるようになってきている.成人内視鏡下心臓手術は,大腿動静脈,頸静脈を人工心肺装置確立のためのカニュレーション部位として使用する.しかし,小児の特徴として大腿動静脈が細いことに起因するトラブルが懸念され,内視鏡下手術はいまだ一般的ではない.一方,身体的特徴とは別に,皮膚切開を小さくもしくは見えにくい位置にすることは,患児の精神発達面や身体的負担の軽減の意味で利点が多く,歴史的に創意工夫が外科医によって行われてきた.
現在小児心臓血管外科領域においては,心房中隔欠損(ASD)や心室中隔欠損(VSD)を代表とする単純先天性心疾患に対して,整容面や低侵襲性を考慮された皮膚切開アプローチで手術が行われている.その方法には,大きく分けて正中小皮膚切開法と右側開胸法の二つが報告されている.これらのアプローチ方法はそれぞれ皮膚切開長の短縮や,隠蔽が容易であるなどの利点がある一方で,手術視野や人工心肺装置の確立のためのカニュレーション方法が異なることによるtips and pitfalls があると考えられる.歴史的背景として,単純先天性心疾患に対する全胸骨正中切開アプローチによる開心術は,リスクが低く成績も安定している手術であるため,若手心臓外科医の登竜門としての意味合いもある手術である.これらの背景を鑑みると,アプローチ方法を変更したことによるリスク上昇は避けなければならない.
今回は小児単純先天性心疾患に対する開心術のアプローチ法として報告されている正中小皮膚切開法と右側開胸法に分けてそれぞれの手術の熟練者に,アプローチ手技とカニュレーション時の工夫などを中心に,手術方法によるtips and pitfalls,若手心臓外科医が安全に手術できる方法について述べていただきたい.
利益相反:なし
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