日外会誌. 125(1): 78-81, 2024
手術のtips and pitfalls
乳房温存オンコプラスティックサージャリーのtips and pitfalls
Volume replacement:有茎穿通枝皮弁を用いた乳房温存オンコプラスティックサージャリー
1) 千葉大学大学院医学研究院 臓器制御外科学 藤本 浩司1)2) , 大塚 将之1) |
キーワード
乳房温存手術, オンコプラスティックサージャリー, 穿通枝皮弁
I. はじめに
乳癌に対する乳房温存術において,欧米に比べて,小ぶりな乳房の患者が多い本邦では,乳房外組織を用いて欠損部を補填するvolume replacement technique (VR)が有用なことも多い.そのため,広背筋や周囲脂肪識を用いて補填をする様々な手術手技が報告されてきた.近年,有茎穿通枝皮弁を使用したVRの報告が増えており1),その概要とtips and pitfallsについて紹介する.
II.乳房周囲の穿通枝
穿通枝皮弁は筋体を用いず,穿通血管のみで栄養される皮弁である.乳房周囲の胸壁にも様々な穿通枝が存在し,有茎穿通枝皮弁として挙上可能である(図1).これらは胸壁穿通枝皮弁 chest wall perforator flap(CWPF)と呼ばれ,乳房部分切除後欠損(全乳房体積の25%程度まで)を補填することが可能である2).CWPFの採取部位は①側胸部,と②乳房下方,二つに大別される.
III.側胸部の有茎穿通枝皮弁
腫瘍が乳房外側区域に存在する症例には,側胸部の有茎穿通枝皮弁を用いる.側胸部に生じる穿通枝には,胸背動脈穿通枝,外側肋間動脈穿通枝,外側胸動脈穿通枝,などがある(図1).これらを茎とする穿通枝皮弁を側胸部から背部にかけて紡錘形に採取し(図2),外側区域の乳房部分切除後の欠損を補填する(図3,図4).
IV.乳房下方の有茎穿通枝皮弁
腫瘍が乳房下部区域に存在する症例では,乳房下方の有茎穿通枝皮弁を用いる.乳房下方で利用できる穿通枝としては,主に前肋間動脈穿通枝と上腹壁動脈穿通枝がある(図1).これらを茎とする穿通枝皮弁を乳房下溝線より尾側で半月上に採取し(図5),下部区域の乳房部分切除後の欠損を補填する(図6).
V.注意点
穿通枝の血行維持には細心の注意を払う必要がある.術前のドプラ超音波検査により,血管の出現部位,走行を把握し,穿通枝周囲では,組織ダメージを避けるためにより慎重な手術操作を心掛ける.具体的には,熱損傷を回避するために,穿通枝周囲では極力,電気メスの使用は避け,剪刀やバイポーラ鑷子を用いる.手術操作時,穿通枝の無用な牽引は避ける.穿通枝をベッセルループで確保すると,誤損傷の回避に役立つ.一方,皮弁の十分な可動性が得られれば,血管は必ずしも露出する必要はない.露出した場合にも,周囲の支持組織は少し残しておいた方が牽引によるダメージを抑えられる.
また,皮弁を欠損部へと補填した際は,術中に座位にて対側乳房とのバランスをチェックする.これを怠ると,術後に立位になった際に思わぬ変形が現れることがあり,注意が必要である.
利益相反:なし
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