日外会誌. 125(1): 72-77, 2024
手術のtips and pitfalls
乳房温存オンコプラスティックサージャリーのtips and pitfalls
Volume displacement:乳房縮小術や固定術を応用した乳房温存オンコプラスティックサージャリー
中頭病院 乳腺センター 座波 久光 , 阿部 典恵 |
キーワード
乳房温存療法, 乳房オンコプラスティックサージャリー, 乳房縮小術, 乳房固定術, Vertical scar mammoplasty
I.はじめに
乳房温存オンコプラスティックサージャリー(oncoplastic breast-conserving surgery, 以下,OPBCS)において,乳癌の切除により生じた欠損と変形を乳房内の組織で形成するvolume displacementでは,乳房縮小術や固定術が用いられることがある.本術式は,美容外科で同様の術式に用いられる皮膚切開から乳房サイズを縮小させて新しい形態の乳房を作成することで,比較的大きな部分切除や整容性の維持が困難な区域の切除を可能とする手技である.一般的には下垂を伴う中等度から大きなサイズの乳房が対象となるが,下垂の程度によっては小さな乳房にも応用可能なことがある.術式の性質上,多くの症例で左右差が生じるので,対側乳房の縮小術や固定術が必要となる場合も少なくないが,現時点では対側乳房の手術に関しては本邦での保険適応はない.皮膚切開のデザインは主に peri-areolar incision(いわゆるdonuts mastopexyやround block technique),vertical scar incision,inverted-T incisionがある.当院では,日本人の乳房サイズならほとんどが対応可能で,術後照射を考慮し創傷治癒遅延がinverted-Tより少ないvertical scar incisionを選択することが多い1)
2).
一般的に下方区域の腫瘍に対しては乳頭乳輪の血流を上方系(superior-based pedicle)で温存し,欠損部は乳腺組織を大胸筋から剥離して充填する.一方,上方区域の腫瘍に対しては中心茎(central mound pedicle), もしくは下方茎(inferior pedicle)で乳頭乳輪を温存し,乳腺組織は広範に皮膚から剥離して欠損部へ充填する.下垂のある乳房の場合,乳腺後間隙が広く緩くなっているので,大胸筋からは剥離しなくとも下方から上方へ乳腺組織を移動させることができる2).本術式を行うにあたっては乳頭乳輪と乳腺組織の血流を十分に理解することが必須である.また,対象となる下垂のある脂肪性乳房では,乳腺弁を作製するために同時に皮下および大胸筋から剥離することはできるだけ避け,脂肪壊死を予防することが大切である.
利益相反:なし
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