日外会誌. 125(1): 49-55, 2024
特集
学会活動,診療・研究にSNS等のツールをどう活用するか
7.SNSを利用した若手医師・学生への情報発信
京都大学 肝胆膵・移植外科 石井 隆道 , 楊 知明 , 西野 裕人 , 穴澤 貴行 , 長井 和之 , 内田 洋一朗 , 伊藤 孝司 , 波多野 悦朗 |
キーワード
ソーシャルメディア, コミュニケーション, 広報, 研修医, 医学部学生
I.はじめに
外科医の減少が問題となって久しく,日本外科学会も「外科医希望者の伸び悩みについての再考」として意見を述べている1).その原因としては様々な要因があるが,外科医が減少すると医局や病院の外科医療の維持に支障をきたすだけでなく,地域や日本の医療の危機にもつながる.しかし,われわれ外科医としては外科に魅力を感じており充実した日々の診療をおくっているはずである.問題はその魅力を十分に若手医師や医学部学生へ伝えられておらず,外科に興味を持ってもらえていないという点にあるのではないだろうか.本稿では,若手医師や学生へ向けた情報発信について私見を混ぜて述べる.
II.医局広報におけるSNS活用
父:いや〜困ったな.
娘:どうした?
父:教授に医局の宣伝のためにSNSとか使えって言われたけど,SNSってよく知らんし.ホームページだけじゃあかんのかな.
娘:ホームページ見ようと思ったらパソコン立ち上げないといけないし,スマホで見ようと思ってもなんかレイアウトが見にくいサイトもあるからね.だいたい何か調べようと思ったらスマホからSNSで調べるし.
父:パソコンあんまり使わないの?
娘:外で見たい時はパソコン使えないでしょ.そういう時はスマホでSNS使って検索.
父:SNSで検索ってどうすんの?
娘:それは「#」を使うの.
父:シャープ?
娘:ハッシュタグ!
SNSとはsocial networking service; ソーシャルネットワーキングサービスの略称で,代表的なSNSはX,Facebook, Instagram, LINEなどがある.SNSはスマートフォン(以下,スマホ)の普及により全世代にわたって利用されている.特に13歳から39歳までの年齢階層では90%以上が利用している2).全体でも80%の個人がなんらかのSNSを利用しており,社会的インフラと言っても過言ではない.SNSの利点としては,基本的に無料であり特別な知識を必要とせずに手軽に開始できること,また簡単に更新できて即時的に情報を提供できることなどが挙げられる.一方で,欠点としては簡単に始められるが効果的な運用にはやはりある程度の知識が必要であること,臨床実務に加えてSNSへの投稿を継続するには負担になること,不適切な投稿によって不利益を被るおそれがあることなどである.
ホームページは医局の沿革や診療内容,診療従事医師などの紹介などで使用され,公式な内容になる.またパソコンなどの検索エンジンを使用して能動的にホームページを訪問することが多いため,記載される内容を充実させる必要がある.そのため頻繁な更新は難しく,即時的な情報提供とは相容れない.一方でSNSはセミナーの開催案内や研究会の様子,論文採択のお知らせなど即時的な情報発信には有用である.ひまつぶしのために偶然たどりつくこともあり,短時間に興味を引く投稿が求められる.
SNSを利用する目的は,総務省通信利用動向調査2)によると第一位は知人とのコミュニケーションのため,第二位は情報を探すため,第三位はひまつぶしのため,となっている(図1).以上よりSNSはコミュニケーションだけでなく情報収集としても利用されていることがわかる.そのためホームページ以外にもSNSを利用した情報発信は有効であると思われる.大学であれば各種セミナーや研究会の宣伝,研究成果の紹介がSNSで発信可能であり,病院であれば診療時間や休診医師のお知らせなどをSNSで投稿することも可能である.またSNSの投稿内で単語やフレーズの前に「#(ハッシュ記号)」(シャープ記号#とは異なる)をつけることで,キーワード検索のように同じハッシュタグ付きのメッセージが検索される.そのため投稿を多くの人に届けたいのであれば,その内容に関連したハッシュタグをつけると検索されやすくなる.
III.誰に情報を届けるの?
父:なるほど,ハッシュタグ使った検索を「タグる」とも言うんか3).じゃ,とりあえず始めてみようかな.
娘:誰のためにSNSを始めるの?
父:そりゃ教授に言われたから・・・.
娘:それ全然ダメでしょ.ホームページをあまり見に来てくれなさそうな人に伝えるためにSNSをすればいいと思う.
父:だったら初期研修医や医学部の学生が対象かな.彼ら彼女らに外科の面白さを伝えたいと思っているよ.例えば今度開く手術手技セミナーなんかの告知とか.病院内にポスター貼ったりしているけれど,応募があまりなくって.
娘:他には若い先生が活躍している投稿とか,研究がうまくいったとか,学会で頑張って発表していたシーンとかいいんじゃない?でも,外科って何が面白いの?
総務省の個人を対象とした調査では,インターネットの利用目的としてはSNSの利用が最も高く,13歳から29歳の年齢階層で90%以上となっている.またインターネットの利用機器としてはパソコンよりスマホが多く,20歳から59歳の年齢階層では約9割が利用している2).また日本肝臓学会の会員を対象としたアンケートによれば年齢層が若いほどSNSの利用率が高い4).そのため特に若手医師や学生に向けた情報発信にはスマホで見ることができるSNSが適していると思われる.
SNSを開始するにあたり,情報発信の目的を明確にしておく必要がある.集患目的に診療内容を発信する場合もあるし,健康情報や疾患知識などを発信する場合もあろう.また医局行事をおもに関連施設医師やOB医師へ向けて発信することもあるだろう.本稿の目的である「若手医師や学生へ向けた医局の魅力発信」という点においては,18歳から29歳くらいの年齢層を対象として,投稿内容も対象に合わせて選ぶ必要がある.われわれは,若手医師や学生を対象にしたセミナーや実習の案内や,若手医師や学生が発表した学会での風景,年齢が比較的近い大学院生の研究紹介や論文採択などを投稿するようにしている.
SNSには様々なプラットフォームがあり,日本でよく利用されるSNSはLINE,X,Facebook,Instagram,YouTubeがある.他にはTik Tok,Pinterest,note,Threadsなどがある.SNSにはそれぞれ利用者の性別や年齢層に特徴があるため投稿内容や目的に応じてプラットフォームを選択しなければならない.さらに流行もあるため担当者はある程度最新のSNSの情報も収集しておかなければならない.われわれはInstagram,X,Facebookを利用している.以下の情報は2023年8月時点のものである(表1)2)
5)
~
7).
Instagram:20歳代の利用者がもっと多く,ついで30歳代,40歳代と続く.女性の利用者の方がやや多い.写真や動画が必須で,テキストだけの投稿はできないが,文字情報をスライドのように画像情報として投稿することは可能である.ハッシュタグや位置情報を使った検索が可能となっている.世界的にはXよりも利用者数が多く,Facebook,YouTube,WhatsAppに次いで4番目である.日本の医療機関の利用も最近増えてきており,特に整形外科や救急救命科,研修医の属する研修センターなどの利用が非常に増えてきている.
X:2023年7月にTwitterからXへと名称を変え,アイコンも青い鳥から黒いXへ変更となり,投稿することを「ツイート」「リツイート」から「ポスト」「リポスト」へと名称変更となっている.利用者は20歳代が半数以上を占め,40歳代以上では利用者数は少ない.短文テキストでの投稿が主であるが,画像や動画,リンクも投稿できる.短文であるため即時性が高い.他人の投稿を共有できるリポスト機能があり,ハッシュタグ検索も可能である.そのためリポストやハッシュタグを通じてフォロワー以外にも拡散しやすい特徴がある.
Facebook:実名登録制であり,一人一アカウントであるため,他のSNSと比較してより公式性が高い.利用者は30歳代から50歳代が主であり,20歳代以下の利用率は極端に少ないため,若い世代への情報発信としては不向きかもしれない.また世界では最も利用者数が多いSNSである.そのため国内では中堅やベテランの医師向けの,あるいは海外への情報発信ツールとして有効であろう.
IV.その投稿届いていますか?効率的なSNS運営のために
父:始めてみたんやけど,反応あるんかないんかよくわからんな.
娘:インスタ始めたんだね.だったら,スマホのアプリを開いて,プロフィールからインサイトってところを開くとわかるよ(図2A).
父:なるほど.フォロワーになってくれている人はほとんどが京都市にいるな.年齢は35歳から44歳が多いけど,これは医局員かもしれないね.でも18歳から24歳までのフォロワーもいるから嬉しいな(図2B).
娘:投稿を見ている時間帯もわかるよ.これで見ると曜日ではあまり変わりないけど,18時から24時までにみられていることが多いね(図2C).だったら投稿もその時間にするとよくみられるかもしれないよ.
あと,インスタは投稿文のなかにサイトのURLリンクをつけることができないから気をつけてね.このセミナーの参加申し込みは,リンクされないから.
父:じゃ,どうしたらいいの?
娘:ストーリー(注:正式にはストーリーズであるがストーリーと呼ばれることが多い)ならリンクつけることができるよ(図2D).ストーリーにはタグ付けもできるし,GIFスタンプもあるし.ストーリーは24時間で消えるけれどハイライトに入れておくとプロフィールからずっと見ることができる.
父:用語集作ってくれ.
SNSを利用した情報発信を始める前に各大学や病院の広報部に連絡し,広報活動ポリシーを確認しておいた方が良い.投稿にあたって後々のトラブルを避けるために一般的には,1.不正確であったり誤解を招いたりする情報を記載しない,2.個人情報の保護,3.誹謗中傷や差別表現を禁止する,4.著作権に留意する,などという点に留意している.医療機関が情報発信を行う際には特に個人情報について留意するべきである.若手医師や学生向けの情報発信であっても,誰でも閲覧できるということを忘れずにいなければならない(例えば「〇〇先生が本日,肝切除の初執刀!」などという投稿は若手医師には興味を引くであろうが,患者さん本人や家族が見れば相当不快に感じるであろう).患者さんだけでなく外科医以外の医療スタッフの個人情報も保護するべきである.以上のような配慮により,現時点ではわれわれは手術風景を含めた臨床情報の投稿は基本的に行わず,個人が特定されうる画像は本人の同意を得ている.また,臓器や血液が映る画像も避けている.ただしこれらのルールは今後,変更する可能性はある.
閲覧数を増やすため相互フォローを期待して,同業者(他大学消化器外科や京都大学他診療科),京都大学や他大学・他病院の臨床研修センターのアカウントをフォローしている.さらに学生にも閲覧してもらうように京都大学医学部のクラブのアカウントもフォローし,投稿があれば適宜「いいね」を押すようにしている.
効率的な運用を行うためには,上記の方針を共有した上で複数のメンバーでチームとして情報発信を行うと良いと思われる.SNSへの投稿は通常の臨床業務に加えてさらに負担となりうるため,できるだけ省力化するべきである.SNSへの頻繁な投稿はやはり負担となるが,長らく活動していないSNSアカウントは活動性が低いことの証となってしまい,逆効果となってしまう.われわれはホームページの新着情報とほぼ同じ内容を,Instagram,X,Facebookに流用して使用している.また更新しない時でも,フォロワーや他の医局の投稿には「いいね」を押して活動性を下げないように留意している.
SNSを利用した情報発信の効果については評価を行うべきである.どのような投稿がよく閲覧されているのか,どのような性別や年齢層に閲覧されているのか,これらはそれぞれのSNSの分析機能を使用すれば可能である8)
9).詳しくは成書に譲るが3)
5),Instagramの分析例を上に挙げておいた.
V.おわりに
われわれの広報活動におけるSNS導入やその模索について述べてきた. SNSによる情報発信は重要であるが,あくまで手段の一つである.若手医師や学生に向けて伝えたい内容,すなわち魅力的な外科であることが最も重要であり,これがなければSNSでいかに体裁を整えてもその投稿は空虚になってしまう.われわれのSNSはフォロワー数も決して多くはなく,成功しているとは現時点では言い難いが,一つの参考になれば喜びである.そしてSNSを利用した情報発信で外科全体が盛り上がり,外科に興味を持つ若手医師や学生が増えることを切に望む.
謝 辞
本稿の作成にあたり国立病院機構大阪医療センター消化器内科田中聡司先生には多大な助言をいただきました.ここに感謝を記します.
利益相反:なし
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