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日外会誌. 124(4): 374-379, 2023

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手術のtips and pitfalls

ロボット支援下手術における左上葉切除時のtips and pitfalls

鳥取大学 呼吸器外科

春木 朋広



キーワード
ロボット支援下手術, 左上葉切除

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I.はじめに
肺悪性腫瘍に対するda Vinci Surgical Systemを用いたロボット支援下手術(Robot-assisted thoracoscopic surgery:以下,RATS)は,2018年に保険収載されてから本邦でも広く普及し,低侵襲アプローチの一つとして定着してきている.5種類ある肺葉切除の中でも,左上葉切除は技術的に難しいとされているが,これは肺動脈が上葉気管支の後方を回り上下葉間に到達する,肺動脈の分枝が多い,肺動脈と大動脈が伴走し上縦隔領域が狭い,などの解剖学的特徴に起因すると思われる.RATS導入初期における開胸コンバート症例に左上葉切除が多いため注意を要する,という報告もある1).肺門構造物の処理や葉間形成,リンパ節郭清など,左上葉切除のどのような場面でも,ともすれば危険な操作になり得るため注意が必要であるが,最も注意を要するのは肺動脈第一分枝の処理であろう.RATSの利点は,3次元視野下に自由度の高い鉗子を用いて,繊細で精確な手術操作を行える点だが,同時に鉗子に伝わる触覚は欠如しているという欠点も有しており,この触覚の欠如を視覚で補うことが重要となる.即ち,肺門構造物の処理や肺切離などは,適切な場面展開で得られる良好な視野のもとで行うことが肝要である.特に前述の肺動脈第一分枝の処理において良好な視野を創り上げるためには,上葉気管支上縁と肺動脈第一分枝の間に介在する組織(血管鞘や気管支鞘,気管支動脈など),および肺門リンパ節を十分に剥離して両者を可能な限り分離しておき,その上で良好な視野のもとに,安全に鉗子やステープラーを通して処理することがコツである.決してブラインドの状況で鉗子を突っ込むような操作は絶対に行ってはならない.
また,RATSでの肺癌手術を効率的に行うコツは,同一術野で出来得る操作を極力多く行っておくことである.逆に言えば,場面展開を頻回に行うと,その分だけ時間を要してしまう.著者らが行う左上葉切除は,基本的にまず肺門部前面で上肺静脈の処理から開始するが,それに先立ち同一術野で大動脈および上縦隔リンパ節を周囲組織から可能な限り剥離する.そして,分葉が良好なら肺動脈を先行して処理し上葉気管支を最後に切離するが,不全分葉があればFissure-less fissure last法で行う2)など,臨機応変に対応することも可能にしておいた方が良い.
本稿では,RATSにおける左上葉切除時のtips and pitfallsについて解説する.

 
利益相反
講演料など:インテュイティブサージカル合同会社,ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社

図1図2図3図4図5

図01図02図03図04図05

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文献
1) Sato T, Iwasaki A, Yutaka Y, et al.: Is left-side DaVinciTM procedure challenging? Initial experiences of a single institute. Gen Thorac Cardiovasc Surg, 68: 1285-1289, 2020.
2) Pardolesi A, Bertolaccini L, Brandolini J, et al.: For arms robotic-assisted pulmonary resection – left upper lobectomy: how to do it. J Vis Surg, 22: 109, 2018.

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