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日外会誌. 124(4): 313-315, 2023

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若手外科医の声

外科医におけるキャリア形成理論―素晴らしいメンターと出会おう!―

山梨大学 外科学講座第一教室

齊藤 亮

[平成23(2011)年卒]

内容要旨
外科キャリア形成においてはメンターの存在が非常に重要であるが,自身の姿勢次第でその出会いも必然に引き寄せることができる.私の経験をもとに,外科医のキャリア形成の考え方についてお伝えする.

キーワード
若手外科医, キャリア形成, メンター

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I.はじめに
若手医師にとって,外科医のキャリア形成に関する不明点や不安が大きいことが,昨今の外科医不足の一因ではないかと考える.医学生や初期・後期研修医の先生を中心に外科医の魅力とキャリア形成の考え方についてお伝えすべく,私自身の経験を振り返りながら,一若手外科医の思いを記す.

II.外科医にとってメンターとの出会いは最重要

1.大学院時代
山梨の田舎で育った私は,母校の山梨大学第1外科(消化器・乳腺・内分泌外科)に入局した.初期研修,後期研修を終え,7年目には山梨大学大学院に入学するとともに,山梨に戻ることとなった.ちょうど2017年3月に赴任された教授にとって,その半年前に大学院を受験していた私が,最初の大学院入学生となった.偶然の巡り合わせであった.当時,教授から頂いた課題は,研究ができる臨床医になること,研究費を獲得できるようになること(=自ら研究を立案,計画,実行できるようになること),そして後輩を指導できるリーダーになることであった.これらは今でも自分自身の基本姿勢として根付いている.2年半にわたるベッドフリーの研究期間もいただき,癌と血小板に関する研究を中心に,一からご指導いただいた.academiaとしての視点が外科医としての深みを生むこと,何より学術活動の楽しさを教えていただいた.アカデミズムのメンターとしての教授と出会い,academic surgeonであることの大切さを教わった大学院時代.手術から離れた期間も長かったが,むしろ自分の外科医人生に深みを生み,キャリアにおける最大のターニングポイントであった.

2.がんセンター中央病院での経験
大学院時代に研究に没頭したのちは,日本トップレベルのハイボリュームセンターで国内臨床留学の機会をいただいた.医局の教授,国立がんセンター中央病院肝胆膵外科の先生方のご厚意もあり,同科で研修をさせていただいた.1年間という限られた期間であったが,連日のように膵頭十二指腸切除やメジャー肝切除に参加・見学し,その技術の高さを目の当たりにした.特に,腹腔鏡手術を中心に師事した先生の手術は,的確な解剖理解と高度な手術手技に基づいていたが,これらも豊富な経験の中でのtry & errorの積み重ねによって大成されたものと感じた.さらに,先生からは手術手技のみならず,論文を書くことやacademiaとしての姿勢の大切さ,キャリア形成における大切なポイントなども,手術室,病棟,そして居酒屋と,さまざまな場面で教えていただいた.各々のキャリアを積んだスタッフ,レジデントの先生との出会い,これは自分の外科医人生における大きな財産となった.特に,本邦の中枢でリサーチマインドを持ちながら一線で活躍されるメンターとの出会いにより,キャリアにおける“次の10年”の方向性がより明確なものとなった.

3.身近なロールモデル
時を遡り,卒後3年目で赴任した竹田綜合病院で,同門の2学年先輩の先生に出会った.私より先に山梨に戻り,大学院で研究をし,その楽しさをいつも語ってくれた.ともに教授に師事し,その先生は食道外科に,私は肝胆膵外科への道を進むことになった.その後,その先生は国内有数のハイボリュームセンターであるがん研有明病院食道外科で研鑽を積まれ,後を追うように私も国立がんセンター中央病院肝胆膵外科に出向した.ライバルとして,良き相談相手として,常に意識する存在であり,メンターでもある.身近なロールモデルとなる同年代の先生に出会えたことは,キャリアにおける重要なポイントであった.

III.外科医におけるキャリア形成理論
このように,外科医のキャリア形成において,素晴らしいメンターとの出会いが重要であるが,人との出会いは偶然の賜物である.しかしキャリア形成は運任せではない.自身のキャリアの中で常に目標を持ち,与えられた環境でベストを尽くすこと,そしてチャンスを生かすべくチャレンジし続ける姿勢.それらにより,本来偶発的である“出会い”も必然に引き寄せられるのではないかと考えている.
もちろん,キャリアの全てが思う通りに進むわけではない.従来の希望とは異なる仕事(例えば地方勤務)や,一見すると遠回りの道に進まざるを得ないこともあるだろう(例えば臨床を志す外科医にとっての基礎研究).外科医であれば,手術経験を積みたくてもなかなかメスを持つ機会が巡ってこないこともあるし(例えばレジデント研修),術後合併症に心を痛めることも少なくない(肝胆膵外科にはつきもの).私自身もそのような経験をたくさんしてきた.しかし,そういう時こそ,自身の置かれた立場でできること・すべきことに真摯に向き合い,目の前にある出会いやチャンスを見逃さない,ひたむきかつ積極的な姿勢が重要であろう.いかなる状況でも,そこに必ず新しい学びや経験があり(先輩メンターとの間ではこれを『住めば都』理論と呼んでいる),またどのようなメンターからも学ぶべきこと,吸収すべきことが存在する(時には反面教師でも).それをみつける姿勢,そこにフォーカスしてポジティブに自分の中で消化・昇華する心持ちが重要かもしれない.そして,普段の頑張りが必ず指導者,協力者を呼び寄せ,出会いの機会は絶え間ないチャレンジによってますます広がっていく.かつて世阿弥が風姿花伝において『住することなきをまず花と知るべし』と記した通り,安定を良しとせず,常に変化しチャレンジし続ける姿勢こそ,キャリア形成の本質ではないかと考えている.

IV.おわりに
ここまで私が考える外科医としてのキャリア形成について述べたが,当然目指すべきキャリアは人それぞれで良い.私自身は,臨床,研究,教育にバランスよく取り組むことで,相乗効果が得られ,充実したキャリアを形成することができると考え取り組んでいる.重要なことは,常に目標を持つこと,チャレンジし続ける姿勢が大切であり,素晴らしいメンターとの出会いを通してさらに人生が開ける,ということである.医師として12年,外科医として10年を駆け抜けてきた.今まで出会ったすべての指導医,同僚,後輩医師の方々に感謝するとともに,これからの出会いもますます楽しみである.気がつけば「専門医」から「指導医」に立場も変わりつつあり,今後は自分自身が若手外科医のメンターとして,キャリア形成の助けとなる存在となっていきたい.プレーヤーとしてのみならず,人を育て,残すことで自分の価値を高めることができれば理想である.最後に,このような貴重な機会をいただいた本誌編集委員の市川大輔先生に深謝申し上げ,稿を終える.

 
利益相反:なし

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