[書誌情報] [全文HTML] [全文PDF] (510KB) [全文PDFのみ会員限定]

日外会誌. 124(4): 307, 2023

項目選択

Editorial

ロボット外科手術

自治医科大学附属さいたま医療センター 

遠藤 俊輔



次の論文へ >>

 
昨今,医療現場にもデジタルトランスフォーメーションなる言葉が叫ばれている.デジタル化にはdigitalから派生したdegitization(デジタル信号化)とdigitalizeから派生したdigitalization(デジタル業務化)と仕組みを変えてしまうdigital transformation(デジタル変革)といったフレームがある.アナログの多い医療の中では,アナログとデジタルをうまく融合させながら変革していくのが今後の課題となる.外科においても保険適応が拡大しロボット手術が普及してきている.ロボット工学的にはデジタル化と同様に人の作業を手伝うrobotization(ロボット支援化)と作業プロセスを自動化するrobotalization(ロボット業務化)とそして仕組み全体をロボット化するrobot transformation(ロボット変革)というフレームがある.一般外科手術にとってロボット支援化のはじまりは縫合器で,自動縫合器の開発により今では手縫いで縫合する機会はめっきり減った.手術支援ロボットは,1990年代アメリカ陸軍が軍用に開発を依頼したもので,米国本土またはアメリカ海軍の航空母艦に滞在中の医師によって,遠隔操作で戦場の負傷者に対して必要な手術を行うことが目的とされたが,湾岸戦争が予想より早く終結したために開発は軍を離れ,以後民間で続けられ,1999年に完成した.現在のロボット支援手術の利点は術者の意のままに術野を展開できることと,ブレの少ない変幻自在なアーム操作と言われる.私が外科医として修練を始めた頃は,アナログイメージの手術書を参考にしながら,上司の指導の下で手術操作を学んでいった.今では巧妙な先生の匠の技も容易にオンラインで勉強できるようになり,今後はロボット支援化された手技・器具を用いて質の高い手術を広く提供できる時代になる.いずれは,達人の手術を学習した手術ロボットが,術前や術中の術野の情報をインプットし術野に応じて自動で操作できる機能を持つようになり,車の自動運転とともに自動手術ロボットも実用化できるのではないだろうか.
昭和の女性の花形職業にタイピストがあった.口述や,個性のある難解な文字でもだれもが読みやすい文字にタイプライターを駆使して打ち替えを行う専門職で,迅速に正確な文書をタイプできるタイピストは重宝がられていた.ところがワープロに続いてコンピューターでのワードソフトが開発され,このような操作を代行できるようになるとタイピストは減少し,2009年の国勢調査では職業分類項目からも削除された.近年では文字起こしソフトも登場し,キーボードすらなくなってしまう可能性が出てきた.ロボット自動手術が開発されるとともに,現在の外科医という職業もどのように変革するか,楽しみである.

 
利益相反:なし

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。