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日外会誌. 124(3): 228-229, 2023

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理想の男女共同参画を目指して

外科社会の変革のために意識変革を!

茨城県立こども病院 小児外科

東間 未来

内容要旨
理想の男女共同参画は法律や制度を変えるだけでは実現できないことがこの20年で明らかとなった.女性が外科医としてキャリアを継続するためには組織の長が自身のアンコンシャス・バイアスに気づき,組織の構造を意識的に変えてゆくことが必要である.

キーワード
男女共同参画, 女性医師支援, アンコンシャス・バイアス

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I.はじめに
「男女共同参画」なる言葉が聞かれるようになって久しい.筆者は2014年,本誌に「外科社会の男女共同参画に向けた提言」1)を寄稿し,その中で四つの提言を行った.それから10年近くがたったが,状況はほとんど変わっていない.組織の意識改革を進めるにあたって近年注目されているのが「アンコンシャス・バイアス」と「心理的安全性」という概念である.理想的な男女共同参画には,外科社会が女性医師に対する偏見を排し,多様な価値観を許容する包摂的で心理的安全性の高い組織へと変容することが必要である.

II.女性医師のキャリア形成を阻むアンコンシャス・バイアス
2018年,医学部入学試験において意図的に女性の合格率を抑制していたことが発覚したが,その前提には「女性は途中でやめる」という偏見があった.2021年の日本小児外科学会秋季シンポジウムにおけるワークライフバランス検討委員会主催の講演会では,社会学者の上野千鶴子氏にご講演いただいたが,氏はこの不正入試問題に対して当事者である医師が憤っていないことを驚きとともに指摘した.確かにわれわれはこの構造があまりにも「当然のこと」で,性差別であるという認識がなかったのである.つまり女性に対する構造的な差別は医学界に通底するもので,われわれ女性自身もその土壌に根を張って枝葉を伸ばしていたことに改めて気づかされた次第である.
女性のキャリア形成が困難な要因として,「女性は家庭や育児を優先したい」,「女性自身が人の上に立つことを望んでいない」など「女性の意欲や優先順位の問題」という指摘がある.この指摘は正当だろうか.アメリカのシンクタンクの調査(2011年)によると,高学歴女性の離職理由として,日本では仕事への行き詰まりや不満を感じて自発的に離職することが多いという結果であった(“Off-Ramps and On-Ramps Japan:Keeping Talented Women on the Road to Success” Center for Work-Life Policy. Harvard Business Review;https://hbr.org/より).Konoら2)が行った調査では,女性医師の方が一人当たりの手術執刀数が特に高難易度手術において少ないことが示されている.さらにKameyamaら3)によると,外科医は他科に比して仕事から得られる満足度は高い一方で自己裁量権が他科と比して著しく低いと感じており,それが若い医師にとって外科を選択しない理由の一つになっていると推測している.仕事において若いうちから「任される」経験が「やる気」につながっていると示唆される.これは女性外科医が「いずれ辞める存在」として軽視され,あるいは育児等のための過度な「配慮」により公平な機会を奪われ続けることで仕事に対するモチベーションが低下する,aspirationのcooling down(『意欲の冷却効果』,上野千鶴子氏)そのものである.
女性外科医支援の核心は,女性が月経や妊娠,出産を経験する性であることを当然としつつ外科医として公平な機会を与えることであり,その実現のためには外科医全体の負担軽減策が不可分である.外科医一般の働き方改革が進まない中での妊娠・育児中の女性への過度な「配慮」は従来の働き方を要請される他の医師への負担増に直結しており,それが当事者である女性の意欲を低下させる原因となるからである.従来の働き方を転換させるためにも,育児や家事などの事情を抱えることがより多い女性外科医を意識的に意思決定の場に迎えることが必要であろう.クオーター制などは「逆差別」として女性からも否定的な意見がある.しかし,つい3年前まで公然と女性への差別が行われていた組織において,「能力」のみの判断では女性の比率は上がらない.まずは組織の意思決定の場にいる女性の比率を上げ,「能力」の定義を変え,意識的にアンコンシャス・バイアスを排してゆく必要があろう.

III.「心理的安全性の高い」組織への変革
医学生や研修医が外科を選択しない理由として「外科医の不良なワークライフバランス」が挙げられている.若い世代では育児や家庭生活を仕事と同様に重視する傾向が明らかになっており,従来通りの「雰囲気で同調しあう長時間労働」をまず駆逐しなくてはいけないだろう.
各施設の外科医数が少ない現状では「働き方改革」は建前に終わり,実際には加算されない時間外労働が増加する危険性があると感じている.関連施設を増やすなどして所属医師を分散させる現在のキャリア形成の在り方にも一石が投じられるべきで,学会を主体として外科医の過不足状況が公開され,異動を希望する医師とのマッチングが行えるなど,医局や学閥にとらわれない流動的な医師の異動が活発化することを期待する.
女性医師の活躍推進は外科医の減少に対する危機感から労働力(あるいは組織をこれまで通りに機能させるための駒)の確保と同じ文脈で語られてきたが,外科医の流動化と集約化によって組織内の権威主義的な従属関係が解消され,外科社会が心理的安全性の高い組織へと変容すれば外科は女性のみならず若手医師にとって魅力的に映るはずである.

IV.おわりに
女性外科医のキャリア形成が困難なのは当事者の意欲の問題ではなく組織構造の問題であることを述べてきた.日本の外科医療を牽引する幹部クラスの先生方が本気で組織内のアンコンシャス・バイアスに立ち向かい組織改革を断行しなければ次の10年も同じ議論を繰り返していることだろう.

 
利益相反:なし

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文献
1) 東間 未来:外科社会の男女共同参画に向けた提言.日外会誌,115(5): 293-296,2014.
2) Kono E, Isozumi U, Nomura S, et al.: Surgical experience disparity between male and female surgeons in Japan. JAMA Surg, 157(9):e222938, 2022. doi:10.1001/jamasurg. 2022.2938.
3) Kameyama N, Nagai H, Ikoma N: Job characteristics affecting Japanese surgeons’ satisfaction levels. J surg res, 260: 475-480, 2021.

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