日外会誌. 123(3): 283-285, 2022
手術のtips and pitfalls
Fenestrated frozen elephant trunk法のtips and pitfalls
練馬光が丘病院 心臓血管外科 岡村 誉 |
キーワード
急性A型大動脈解離, frozen elephant trunk, fenestration
I.はじめに
Fenestrated frozen elephant trunk(FET)法(図1)は,末梢側吻合の中枢化(zone 0-2)とFETのfenestrationによる頸部分枝還流を特徴とする1)
~
3).利点として,①末梢側吻合の中枢化,②fenestrationした箇所の頸部分枝の再建不要(特に左鎖骨下動脈),③反回神経麻痺の回避,④左鎖骨下動脈再建に伴う左腋窩動脈の露出・吻合が不要,⑤胸部正中切開のみで手術完結(上行大動脈送血と併用時)が挙げられる.そのため,比較的経験の少ない外科医でもより簡便かつ短時間の弓部置換術が可能になることが期待される.
手術手順を示す.循環停止下で,順行性選択的脳還流を腕頭・左総頸動脈に行い,zone 2で大動脈を離断し,左鎖骨下動脈をクランプしておく.続いて,FETのステント部が末梢吻合部に来るようにFETを留置する.非ステント部を残すと術後FET屈曲のリスクになるため残さないようにする.直接ステント部に吻合することは安全に可能である.左鎖骨下動脈入口部に相当する箇所のFETに直視下にてメッツェンで径10mm大の穴を開ける(図2).FETの人工血管はステントから浮いており,容易にfenestrationできる.Fenestrationからのエンドリーク防止目的で,左鎖骨下動脈を取り巻くようにU字型人工血管ストリップを巻き,4-0モノフィラメント糸で左鎖骨下動脈周囲を縫い固定する(図3).その後,末梢側吻合の外側をフェルト補強し,4-0モノフィラメント糸で4分枝人工血管と連続吻合し,循環再開する.中枢側吻合,左総頸・腕頭動脈再建して手術終了となる.
Fenestration自体は簡便であり,左鎖骨下動脈周囲の良好な術野展開の方が重要である.皮膚切開線の上端を若干左側(左鎖骨内縁)にずらすことで,左鎖骨下動脈をより真上から目視できるようになり,本術式が容易になる.循環停止前に弓部・左鎖骨下動脈前面の脂肪をプレジェット付き2,3針で皮膚に縫い固定することで,弓部大動脈全体が手前に来て良い術野が得られる.FETステント部の正確な留置も重要で,第1助手がFETのハンドルと芯をしっかり保持し術者が展開だけに集中することで正確に留置できる.
Fenestrationのみでは術後エンドリークを認める症例がある.解離では真性瘤と異なりエンドリークが動脈瘤破裂に直結する訳ではないが,エンドリークの遠隔期影響は不明で残すべきではない.エンドリークを防止するには,FETのステント拡張力のみ,またはfenestrationから頸部分枝にVIABAHNを挿入する方法もあるが,本法のようにfenestration周囲を縫合固定する方法が安価,確実,左椎骨動脈までの距離に関係なく行えると考えている.
利益相反:なし
PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。