[書誌情報] [全文HTML] [全文PDF] (607KB) [全文PDFのみ会員限定]

日外会誌. 123(3): 218-219, 2022

項目選択

若手外科医の声

これまでの経験から考える私の理想の外科医像

公益財団法人がん研究会有明病院消化器センター大腸外科,東京医科大学人体構造学講座 

天野 隆皓

[平成20(2008)年卒]

内容要旨
外科医として15年目である私は,これまで3,500件を超える手術を経験しました.また,外科史に残る幕内雅敏先生,森谷宜皓先生を始め,素晴らしい恩師たちにご指導いただけたことは,かけがえのない財産です.恩師達を見て,外科診療チームでリーダーシップをとれる人間性,技術,知識,観察力のすべてにおいて高いレベルで持っている外科医を私は理想と考えています.

キーワード
理想の外科医, チーム医療, リーダーシップ, 市中病院での修練

<< 前の論文へ次の論文へ >>

I.はじめに
外科医への道を志したきっかけは,5年生時の消化器外科実習で部活の先輩である篠原玄夫先生から,「消化器外科医になれ」と言われたことでした.期間中,チーム医療の中心でリーダーシップを取られる姿を見て,消化器外科に決めました.私を導いてくださった篠原先生と,いつか一緒に診療に携わることができればと思っております.
大学卒業後は初期臨床研修から12年間,日本赤十字社医療センターに勤務し,卒後13年目からがん研有明病院でレジデントとして修練しています.これまでの経験を振り返り,私の目指すべき外科医像を考えました.道半ばではありますが,このような光栄な機会を与えていただき感謝申し上げます.

II.日本赤十字社医療センターの12年間
初期研修は日本赤十字社医療センターの外科プログラムでした.同院の外科部門は市中病院にも関わらず,外科専門医取得に必要な全ての診療科が配備されていました.初期研修医から執刀させていただく機会を与えていただき,迷うことなく3年目以降の外科後期研修を継続することを決めました.
肝胆膵移植外科では,世界の第一人者である,幕内雅敏先生の手術をみることができました.まだ私が後期研修医であったにも関わらず,HPD等の第一助手を務めさせて頂きました.幕内先生は,常々私に「皮膚切開から皮膚縫合・ドレーン固定まで頭の中で全部イメージできてこそ初めてその手術を会得したと言える」とおっしゃっておりました.第一助手の指名がいつ来ても良いように,不明瞭な手順を予習・復習して手術に臨みました.また,多くの生体肝移植の手術助手および術前術後管理を経験することができ,手術技術を磨くことの重要性だけでなく,先手・先手の周術期管理により術後合併症を大きく減らすことができることを学びました.「24時間365日,医師であれ」の精神のもと,とても多忙な日々が続きましたが,当時は本物の若手であったこともあり,とても充実していました.
大腸肛門外科では,遠藤健先生に手縫い消化管吻合を徹底的に教えていただきました.「筋層に直角に刺入して,組織に負担をかけないように運針しなさい」と常々おっしゃられており,今でも手縫い吻合する際には,この言葉を思い起こします.現在では,機械吻合が多く行われますが,手縫い吻合はいつの時代になっても消化器外科医に必要な基本手技であると確信しております.また,国立がんセンター中央病院より森谷宜皓先生が赴任され,「子宮・膀胱も自分で切除して再建できてこそ,一人前の骨盤外科医だ」という言葉に強い感銘を受け,大腸外科を専門科とすることを決めました.
卒後6年目から大腸肛門外科に配属となり,森谷先生より骨盤内臓全摘術,側方郭清等の拡大手術を主にご指導いただきました.ある時,巨大右腎癌・上行結腸浸潤の症例の手術手順を事前に記載し森谷先生と検討したところ,「ほう,天野君のいう手順でやってみようか」ということがありました.手術は順調に遂行され,以降,森谷先生から多少の信頼をいただくことができ,より一層の師弟関係を築くことができたと自負しております.退官時に森谷先生より頂いた直角鈎は私の宝物です.
お二人の退官後,腹腔鏡手術を専門とされていた現杏林大学教授・須並英二先生が赴任されました.腹腔鏡手術の基礎を根本から学び,難易度の高い拡大手術も低侵襲である内視鏡手術もどちらも大切であること実感しました.さらには臨床研究も御指導頂き,現部長・佐々木愼先生,東京医科大学人体構造学・伊藤正裕教授のお力添えもあり単孔式腹腔鏡下虫垂切除術の難易度に関する論文で学位を取得することができました.そこで,臨床研究の重要性について認識し,ロボット手術を含めたハイボリュームセンターでの手術の研鑽,直腸癌の集学的治療,より大きな規模での臨床研究を学びたいと思い,森谷先生の兄弟子である山口智弘先生を慕ってがん研有明病院へ応募しました.

III.がん研有明病院での修練
卒後13年目にレジデントとしてがん研有明病院・大腸外科に赴任しました.全国から集まった意欲の高いレジデントに囲まれ,自分に不足していることがたくさんあることを痛感しています.2年経過しカンファレンスで恐る恐る意見を述べるように心がけておりますが,まだまだ裏打ちされた知識が不足していると感じています.手術に関しては,腹腔鏡手術は福長洋介先生,秋吉高志先生を中心に高い技術を持った先生方にご指導いただいております.ロボット手術は指導を受ける機会を得ることがなかなか難しい状況だと思いますが,山口先生を中心に日本内視鏡外科学会技術認定医取得前でもコンソール術者の指導をしていただける環境へと変わりつつあります.臨床研究は,経験が少ないながらも,ハイボリュームセンターならではの研究テーマを与えて頂きました.日々の臨床の合間に,データ収集・解析を行い,研究発表・論文執筆を目指しております.恵まれた環境,貴重な機会を無駄にすることなく,日々過ごさねばと思う毎日です.

IV.おわりに
これまで御指導して下さった素晴らしい恩師達の姿を見て,外科診療チームでリーダーシップをとれる人間性,技術,知識,観察力のすべてが大切であることを学びました.これらを高いレベルで持っている外科医を私は理想と考えます.
次は,私が後輩たちに自分の姿を見てもらい,消化器外科を志す後輩が増えれば,この上ない喜びです.

 
利益相反:なし

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。