[書誌情報] [全文HTML] [全文PDF] (990KB) [全文PDFのみ会員限定]

日外会誌. 123(2): 159-164, 2022

項目選択

特集

Corona禍で大きく変わった学術活動,After Coronaでどう舵を切るか

3.ライブセッション;WEB開催のここが良い,ここが問題

千葉大学大学院医学研究院 先端応用外科学

宮内 英聡 , 松原 久裕

内容要旨
コロナ禍により日本外科学会定期学術集会は2020年より2年連続でWEB開催となり,それまで行われてきた現地会場に集まっての発表,討論の形は困難となり,WEBを用いてライブセッションとして行われることとなった.第117回から119回までの現地開催と120,121回のWEB開催を比較すると,総参加者数はWEB開催が現地開催より多かったにもかかわらずライブセッションとして行われた各上級セッションへの参加者数はWEB開催で明らかに少なかったが,アーカイブ配信視聴数を加えると上級セッションの参加または視聴者数は現地開催での参加者数を大きく上回っていた.WEB開催でのライブセッションにおけるメリットとしては,開催コストの低減,参加者の時間的・経済的負担軽減,参加者増加に伴う学会参加費の増収,参加形式の自由度の高さ,チャットやアンケート機能の容易さ,アクセスデータの解析利用,収録セッションのアーカイブ配信の容易さなどが考えられた.逆に問題点としては,学会の雰囲気の把握,参加者同士の交流や意見交換,懇親会などの付随イベント開催,時差による海外演者の参加,接続がダウンした場合の応急的対応などに関する困難さや,個々のインターネット環境による不具合の可能性が考えられた.ポストコロナの時代においてもこうしたWEB環境を利用した学術集会が主流となることが予想され,充実した発表や討論を可能とするようなライブセッションの形を作っていくことが重要である.

キーワード
WEB開催, ライブセッション, コロナ禍, 学術集会, 開催形式

<< 前の論文へ次の論文へ >>

I.はじめに
2019年末の世界的な新型コロナウイルスの流行に端を発し,様々なイベントが中止を余儀なくされる中,学術集会においても通常のような現地に集合しての開催が困難となった.こうした中,新たな学会開催形式としてネット環境を用いたWEB上での開催が広く行われるようになっている.日本外科学会においては2020年の第120回日本外科学会定期学術集会は4月の通常開催がかなわず8月に延期され,慶應義塾大学一般・消化器外科の北川雄光会頭により初めてWEBによる開催となった.さらに翌2021年の第121回日本外科学会定期学術集会においてもコロナ禍が収束しない中で,会頭を仰せつかった千葉大学先端応用外科の松原久裕によりやはりWEB開催で行われた.医学界のみならず各界の学術集会においてWEBを用いた開催が行われているが,こうした学術集会の開催形式に関する論文は未だ非常に少ないのが現状である1)3).筆者は第121回日本外科学会定期学術集会の運営にかかわった者であるが,こうした新たな開催形式に関する考察をしておくことは今後の学術集会のあり方を考える上で意義深いものと思われ,自らの経験も交えてWEB開催におけるライブセッションのメリット・デメリットについて重点的に論じることとする.

II.WEB開催におけるライブセッションの形式
一口にWEB開催といってもその方式は様々であり,またいくつかの方式を取り入れて行われることもある.図1は,WEB開催の形式を動画配信するかしないかによって分けたものである.こうしたいくつかの形式をセッション毎に組み合わせて行うことも考えられる.本稿では,ライブセッションについて考察することを目的としているが,WEB開催におけるライブセッションを「司会者と演者がリアルタイムに参加し,WEBを用いて発表や質疑応答を行う形」として扱うこととする.その場合,前述の開催形式においては主として①または②の形が想定される.
ライブセッション自体の形式については,司会者,演者,参加者の関係として図2のようなパターンが考えられる.それぞれの方法において,質疑応答が会場もしくはWEB上で行われるが,それは会場やPCのマイクを通して,あるいは閲覧者からのチャットで行われる.発表スライド自体は事前に音声を含めて収録されたものを用いる場合もある.

図01図02

III.第121回日本外科学会定期学術集会での開催形式とその結果
第121回日本外科学会定期学術集会の準備過程においては,コロナ禍における感染の収束状況がなかなか予測できず,開催形式をどのようにするか非常に苦慮することとなった.学術集会まで半年となった2020年10月の時点ではコロナ感染の第二波が収束傾向を示し新規陽性者数も500人程度まで減少し「Go Toトラベル」も行われるなど,翌年4月の開催に向けてやや明るい兆しがみえてきたところだった.ところが11月に入り再び徐々に感染者数が増加し,第3波の様相を呈してきた.松原会頭の意向としては,なんとか上級セッションだけでも現地開催+Live配信で行いたいとぎりぎりまで検討していたが,年が明けて1月8日に2回目の緊急事態宣言が千葉県にも発令され,陽性者数も約8,000人まで増加するに至り,1月の外科学会理事会において上級セッションはWEBでのディスカッション(ライブセッション),サージカルフォーラムや研修医・医学生セッションは各発表の配信に対して司会者がコメントを述べる形,ポスターセッションは司会者なしで配信のみという形となった.そうした中で,第1会場で行うセッションのみは原則として演者,司会者が現地参加するという形にした.また,会期中の目玉企画として準備してきた「Cadaver Live」セッションに関しては会期中の開催は不可能と判断し,9月に延期することとなった.学会翌日の4月11日に予定していた市民講座も同じくWEBで配信することとなり,また拡大プログラム委員会,全員懇親会などの招宴関係はすべて中止となったが,予定していたアトラクションは収録を行い,これをWEBで配信することとなった.
表1に日本外科学会事務局より提供いただいた第117回から第121回日本外科学会定期学術集会における上級セッション(シンポジウム,パネルディスカッション,ワークショップ)の参加状況のデータを示す.117回から119回はコロナ禍に陥る前の通常現地開催であり,120回,121回はWEB開催でライブセッションとして行われたものである.現地開催のみの117回から119回においては上級セッション1セッションあたりの平均参加人数はそれぞれ121人,125人,120人であったが,WEBによるライブセッションとして行った120回,121回では89人,70人と明らかに減少していた.総参加者数は117~119回で15,000人台であったのに比べWEB開催で行った120,121回が21,112人,17,005人とむしろ増加しており,参加者全体から算出した1セッションあたりの平均参加率をみると,その差はより顕著となった.リアルタイムでの参加者数はこのようにWEB開催では明らかに減少しており,ライブセッションにおける活発な討論が起こりにくい状況の一因となり得るかと思われた.その一方で,120回,121回における録画されたライブセッションの会期終了後のオンデマンド配信における視聴者数は,リアルタイムでの視聴参加者数を大きく上回っており,オンデマンド配信も含めれば上級セッションの平均参加(視聴)率は現地開催を上回っていた.自由な時間に興味のあるセッションを視聴できる,同じ時間に平行して行われたセッションも複数視聴できるという点においては,オンデマンド配信のメリットも大きいものと考えられた.

表01

IV.WEB開催におけるライブセッションのメリットとデメリット
自らが経験した学術集会の経験から,これまでの現地開催のみで行う学術集会と比較して,WEB開催によるライブセッションのメリットあるいはデメリットとして考えられることを以下に挙げてみる.
『ここが良い』
1)密を避けることができる
これはまさにWEB開催のメリットというよりも,こうした方法が取り入れられることになった目的と言える.
2)開催コストを低減できる
開催会場の数や大きさを大幅に減らすことが可能であり,会場費の削減が期待できる.さらにスタッフの必要人員が少なくなるため人件費も削減できる.
3)宿泊費や移動費など参加者の費用負担が減らせるとともに,時間的なロスも減らせる
参加者自身も経済的,時間的に負担が減ることとなり,特に遠隔地での開催の場合にはメリットが大きい.
4)参加者の増加が見込まれ,学会参加費の増収が期待される
実際にWEB開催となった120回,121回においてはそれまでの現地開催での参加者数が約15,000人余りから第120回が21,112人,第121回が17,005人と明らかに増加していた.
5)参加者は自由な場所とデバイスで参加できる
遠隔地の勤務先あるいは自宅などのPCやタブレット端末で参加が可能であり,場合によっては交通手段での移動中の参加も可能となる.
6)チャット機能やアンケート機能,記録の確認などが容易に活用できる
質問や意見などを広く集め,共有が可能となる.またそれを後に再度確認することも可能となる.
7)参加者のアクセスデータ(性別,地域,視聴数,視聴時間など)の解析が容易にできる
セッションの参加者の属性の把握,いつどの程度視聴されたかなどのデータの記録が可能となり,それらを解析することでより効率的,あるいは魅力的なプログラム作成に生かすことができる.
8)行われたセッションの録画が容易で後日のアーカイブ配信に使用できる
先に示したように,参加者は好きな時間に,また同時間帯に行われたセッションも複数視聴でき,アーカイブ配信まで含めるとセッション毎の視聴参加者数が増加する.
『ここが問題』
1)個々のインターネット環境により満足度が左右される
それぞれのネット環境はまちまちであり,通信の不具合などにより円滑な進行が妨げられる可能性がある.そのため,事前にライブセッション参加者には配信テストなどの準備も必要となる.
2)学会の雰囲気がつかみづらく,議論を深められない可能性が高い
学会場で一堂に会しての直接の議論でないため,参加者の反応が伝わりにくく,質問も少なく議論が深まらずに進んでゆく可能性が高い.
3)セッション以外での参加者同士の交流が困難で関係作りがしにくい
セッション中に足りなかった議論を現地開催のように終了後にさらに深めることや,セッション以外の場での意見交換が難しい.
4)懇親会など,学会関連の付随イベントの開催ができない
他施設の参加者と知り合ったり,親交を深めたりという機会がなく,同じ道を目指す者同士などの一体感を得る機会が得られない.
5)時差の問題から海外演者の参加に困難が伴う
海外からの参加者とリアルタイムにセッションを行う場合,時差の関係で参加が困難となる,あるいは身体的な負担が大きくなる可能性がある.
6)接続がダウンした場合の応急的な対応が困難
ライブセッション中に接続がダウンした場合,現地開催でマイクやスライド映写に不具合が生じた場合に比べて応急的な対処が難しく,また参加者への状況のアナウンスも困難となる.

V.考察
今後の学術集会において,ライブセッションをいかに用いるかを考える上においては,まずは感染防止がどの程度必要かによって考慮に入れるべきメリットとデメリットを天秤にかける必要がある.感染防止を第一優先とする場合には,やはり現地開催は困難となりWEB開催を基本とせざるを得ないであろう.この場合,議論を深めるという学術集会本来の意義を重視する観点からは極力ライブセッションを行い,そしてなるべく多くの参加者が視聴できるようにそれを収録してオンデマンド配信することが望ましいのではないかと考える.感染状況が落ち着いている場合は,直接の活発な討論が行いやすく,またセッションの時間以外にも議論や親交を深められる現地開催のメリットが大きいと考えられる.ただしこの際にも現地でのセッションを収録して後にオンデマンド配信で視聴可能な参加形態も併用することがそれぞれのメリットを生かせることになるであろう.本来ならばこうした現地開催を行う場合においても遠隔地からリアルタイムにセッションに参加する選択肢もあるハイブリッド形式のメリットが大きいように思われるが,多数のセッションでハイブリッド形式をとった場合には器材やシステム構築のコストが極めて大きくなることが問題となる.またせっかくこのようなハイブリッド形式で行っても,実際には現地参加者がWEBでのセッション参加者に比べて非常に少ないことは昨今の学術集会においても見受けられており,そのメリットが生かし切れない面があるようにも思われる.

VI.おわりに
コロナ禍を契機としてこれまで当たり前に行われてきた現地開催での学術集会が困難となり,WEBを用いた学術集会がもはや通常の開催形態になっている.本稿執筆時点では新型コロナウイルスのワクチン接種も順調に進み,第5波の収束とともに緊急事態宣言もすでに解除されている.今後もこうした感染制御状況が維持できることを願ってやまないが,ポストコロナの時代において感染の状況如何にかかわらず今後の学術集会開催のあり方はコロナ禍での経験をもとに変化していくことは間違いないであろう.先端的なネットワークシステムを活用することにより安全で効率的,経済的な学術集会形式に収斂されていくものと思われるが,こうした中でも学術集会の第一義とも言える学術発表および討論の場をいかに意義深い形にできるかが求められる.コロナ以前の学術集会で戦わされてきたそうした熱い議論の場=ライブセッションを研修医や若手外科医にもしっかり経験してもらうことは外科学の将来にとっても大きな意味を持つものと思われ,こうした観点からもライブセッションのあり方を考えて行くことは非常に重要であろう.

 
利益相反:なし

このページのトップへ戻る


文献
1) 庄司 裕子 :新しい生活様式における学会開催のあり方とは.感性工学,19: 3-8,2021.
2) 榎本 隆之 , 関根 正幸 :【ポストコロナ時代の産婦人科医療】学会開催と学会の役割 第73回日本産婦人科学会学術講演会を主催して.産婦の実際,70(7): 745-750,2021.
3) 後藤 浩 :【ニューノーマル時代の眼科】ニューノーマル時代の学会の在り方.日の眼科,92(4): 399-403,2021.

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。