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日外会誌. 122(6): 680-682, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(4)「情熱・努力を継続できる外科教育」
6.外科マネージメントセンターによる情熱のある外科医教育・育成システム

1) 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 消化器外科
2) 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 心臓血管外科
3) 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 呼吸器・乳腺内分泌外科

菊地 覚次1) , 吉田 龍一1) , 黒田 新士1) , 野間 和広1) , 安井 和也1) , 笠原 真悟2) , 豊岡 伸一3) , 土井原 博義3) , 藤原 俊義1)

(2021年4月9日受付)



キーワード
外科MC, Faculty Development, キャリアパス, 新専門医制度

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I.はじめに
2004年の初期臨床研修制度が義務化,2018年の新専門医制度による専攻医研修の開始と,近年医学生や若手外科医をとりまく環境は大きく変化している.2020年からは初期臨床研修制度のプログラムに外科が必修に復帰したが,依然として医師の診療科や地域偏在の問題は解消していない.その中で,地方での外科医不足は深刻な問題であり,今後日本の外科医療を維持,発展していくためには,新たな対応が必要である.
岡山大学では,2010年より旧第一外科,第二外科,心臓血管外科合同で岡山大学外科マネージメントセンター(外科MC)を設立し,診療科の垣根を超えた3科合同の外科研修プログラムを開始し,若手外科医のリクルート,養成,そしてキャリアパス支援を行ってきた.また近年では,医学生の臨床実習も改良し,外科医のリクルートにつなげてきた.ここでは,その取り組みと成果,コロナ禍での工夫等を紹介し,今後の外科MCの果たすべき役割について考察する.

II.医学生,若手外科医をとりまく制度の変化
本邦の医学生や若手外科医をとりまく研修制度や専門医制度について近年大きく変化している.従来多くの医学生は,医師免許取得後に各大学医局に入局し,外科ストレート研修を行っていたが,2004年に初期臨床研修制度が義務化されたことにより,卒後2年間の臨床研修(スーパーローテイト)が必須となった.その結果,全国の病院は研修医を公募で選抜することになり,研修医にとっては研修先が自由に選択できるようになったが,一方で地方や診療科における医師偏在が起こった.さらに2009年,臨床研修制度が改訂されたことに伴い,外科は必修科目から除外され,産婦人科や小児科とともに外科医不足は深刻なものとなった.
各診療科別の医師数変遷をみてみると,医学部定員の増加や医学部の新設に伴って医師の総数は20年間で約1.4倍に増加しているが,産婦人科と外科はその総数は横ばいであり,実質的には外科に進む医学生の割合は年々減少していることがわかる1)
さらに,2018年からは新専門医制度による専攻医研修が開始し,研修医は外科専門医取得にむけて一つのプログラムを選択することとなったが,このような変化に対し,医学生や研修医に外科の魅力を伝え,また彼らの外科や新専門医制度に対する不安や疑問を払拭し,キャリアパスをサポートすることは,日本の外科医療の質を保ち,さらに発展していくために必要不可欠である.

III.情熱をもった医学生教育と外科医のリクルート
医学生や若手外科医をめぐる制度の変化による外科医不足に対応するため,外科医のリクルート,養成,キャリアパス支援をする目的で,岡山大学では2010年に岡山大学外科マネージメントセンター(外科MC)を設立した.外科MCは旧第一外科,第二外科,心臓血管外科が合同で関連施設を含めた広域での外科研修プログラムを提供し,若手外科医それぞれのニーズに合わせてキャリアサポートを行っている.その特徴としては,学生のうちから外科MCに入会でき,各医局へ入局の必要はなく,入退会は自由にできるということである.医学生には外科医の魅力ややりがいについて実感してもらうために,従来の見学型から参加型臨床実習に改良した.実習期間は指導医にマンツーマンでついて,術前後のカンファレンス準備や病棟での処置,手術参加と,診療チームの一員として積極的に参加することにより,医学生のモチベーションアップにつなげてきた.さらに医学生を対象に,年2回外科MC主催で外科についての魅力ややりがいについて伝えるセミナーを開催し,その後若手外科医との対話の機会や懇親会を設けて外科に対する不安や疑問の解消をおこなった.しかし,近年は新型コロナウイルスの影響で,対面実習の制限や懇親会の中止が余儀なくされたが,最終的には実習内容の充実を図るしかないと考え,手術動画を作成し,web会議システムを用いた手術解説や外科説明会を行うことでこの窮地に対応している(図1a).その結果,最近では年間20名程度の外科MC入会者を獲得するまでになった(図1b).

図01

IV.情熱をもった外科MCによる外科医育成
専門医プログラムでは,基本コース,地域枠コース,外科救急連携コースの3コースを準備しており,修練施設は,中四国中心に大学病院を含めた合計71の外科専門医修練施設の中から『高度医療から地域医療まで』をキャッチフレーズに,専攻医は自分の希望に沿った研修先,研修コースを選択し,研修を行うことができる.また,外科MC事務局では,年2回各施設の責任者会議を行い,それぞれの専攻医の研修状況や研修実績について把握,管理している.さらに,女性外科医のキャリア支援を行う組織(GRAPES)をつくり,妊娠・出産等に関わる女性外科医の職場環境整備や研修スケジュールの調整等を行い,サポートを行っている.
以前行った外科MC入会者(専攻医)を対象にしたアンケート調査では,研修先に求めるものとして,よい指導者がいること,執刀機会が多いことが条件として挙がっていた.そのため,指導医の立場にいる外科医もFaculty Development(FD)として,外科系指導者養成講習会を定期的受講し,さらに日本全国の外科系教育に熱心な先生方の集まる日本外科教育研究会2)にも積極的に参加して,指導法や教育法についても日々学習している.

V.おわりに
臨床研修制度や新専門医制度の変化に伴い,医学生や若手外科医を取り巻く環境は大きく変化しており,地域医療や外科医療を崩壊させずに,さらにそれぞれの外科医の夢を実現しながら,外科全体が発展していくためには外科MCのようなキャリアサパス支援システムが必要であると考える.またその実現には,システムや制度だけでなく,そこに関わる全ての指導医である外科医が情熱と責務をもって日々の外科診療にあたり,後輩外科医の育成にあたる必要がある.一方で,指導医の育成や指導医自身のモチベーションの維持は今後の課題であり,他の組織や機関との連携や協力は不可欠である.

 
利益相反:なし

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文献
1) 厚生労働省:平成28年医師・歯科医師・薬剤師調査の概況. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/16/(アクセス日:2021年5月13日)
2) 日本外科教育研究会: http://www.surgicaleducation.jp/(アクセス日:2021年5月13日)

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