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日外会誌. 122(6): 649, 2021

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手術のtips and pitfalls

「腸管機能不全における小腸移植術」によせて

神戸大学大学院医学研究科 外科学講座小児外科学分野

尾藤 祐子



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難病の克服は全ての分野において重要な課題です.小児外科領域においては,先天性の消化管の蠕動消失あるいは十分でないために消化吸収障害や敗血症を引き起こす疾患が存在します.代表的なものが重症のヒルシュスプルング病あるいはその類縁疾患です.また,中腸軸捻転などによる腸管壊死などに伴う短腸症候群も消化吸収障害を引き起こします.先述の重症のヒルシュスプルング病や類縁疾患でも敗血症の原因となる腸管を切除するため多くが短腸症候群となります.患者の栄養摂取は中心静脈栄養に依存し,在宅医療での安定したカテーテル管理と身体の成長や維持のために適切な内容の静脈栄養が重要です.合併症として,ほぼ全例で中心静脈カテーテル感染の反復,栄養障害,成長障害,肝障害,血管の閉塞,多期的手術による腸管癒着に伴う強い腹痛,など多くの問題が生じています.加えてこれら合併症の問題が患者の生命予後を左右し,またQOLを著しく損なっているのが現状です.
近年,臓器移植が進み,新たな外科治療法として期待されています.腸管機能不全に対しては,小腸移植術が病気に悩んでいる患者や家族,医療者にとって選択肢にあがることが,大きな希望となります.1990年代に本邦初の小腸移植術が行われて久しいですが,現在でも医学・医療経済・社会的な側面から課題が多く,わが国で一般的治療となるにはまだ乗り越える努力を継続することが必要と感じます.本邦での小腸移植症例は小児期の疾患に基づくものが多いですが,近年の報告では成人症例が4割近くにのぼり,外科学領域全体としての課題ととらえる必要があると考えます.
今回は,本邦での小腸移植の第一人者であるお二人に腸管機能不全に対する小腸移植術について解説していただきます.日本外科学会会員の先生方に手術に関する知識を共有し,また腸管機能不全の患者の治療に対して理解を深めていただきたいと思っています.

 
利益相反:なし

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