[書誌情報] [全文HTML] [全文PDF] (942KB) [全文PDFのみ会員限定]

日外会誌. 122(6): 625-630, 2021

項目選択

特集

コロナとの対峙 外科診療の変容とポストコロナへ向けて

7.COVID-19重症症例の治療成績について

かわぐち心臓呼吸器病院 

大山 慶介 , 竹田 普浩

内容要旨
COVID-19はウイルス感染を契機とした肺炎像である.重症度の程度は様々であるが,病状が進行するとARDS(Acute Respiratory Distress Syndrome)の状態となる.薬物療法では抗ウイルス薬投与とステロイドが現時点ではclassⅠとなっている.しかし,低酸素血症が増悪すると,人工呼吸器管理やECMO(Extracorporeal membrane oxygenation)管理が必要となる.各々の管理も通常管理ではなく,ARDSに準じた高度な管理方法が求められる.日本ECMO netがwebにて公開しているCRISIS(CRoss Icu Searchable Information System)データベースによると2020年5月31日の段階で人工呼吸器実施数が496名,離脱数が3,790名,死亡が1,048名となっている.またECMO実施数が54名,離脱数が421名,死亡数が220名となっている.このような未曾有のICU管理が多数出現する重症疾患に対して,日本ECMO netは,厚生労働省事業としてECMOチーム等養成研修事業,重症者治療搬送調整等支援事業を立ち上げ,重症治療のサポート業務の一旦を担っている.ECMOチーム等養成研修事業に関しては,COVID-19に適切な人工呼吸器管理およびECMO管理を行う講習会を全国47都道府県で実施した.重症者治療搬送調整等支援事業では,人工呼吸器管理に関しての追加支援やECMOセンターもしくはECMO実施施設への転院を行う際に適切な導入時期・導入場所の決定の支援を行った.COVID-19重症治療に関しては,単施設だけでは困難な場合があり,複数の施設の協力によって成り立つ場合もあり,より救命・社会復帰の可能性を高める.

キーワード
COVID-19, 人工呼吸器, ECMO, 日本ECMO net, CRISIS

<< 前の論文へ次の論文へ >>

I.はじめに
COVID-19はパンデミックとなり,日本全国で重症患者が多発することになり,莫大な数の飛沫感染・接触感染対策が必要なICU病床が必要となった.全国におけるCOVID-19に対するICU病床数を把握し,連携した重症治療の標準化や病床運営のサポートを行うことを目的としたデータベースの拡充が必要となった.こういったなか,日本ECMO netではデータベースCRISIS(CRoss Icu Searchable Information System)を作成しリアルタイムにデータ公開を行った.また,ARDS(Acute Respiratory Distress Syndrome)に対しての人工呼吸器管理,ECMO(Extracorporeal membrane oxygenation)管理を全国的にサポートするために24時間体制でのコンサルテーションおよび講習会を実施することとした.

II.CRISISデータを用いた重症治療成績について
日本の重症治療成績に関しては,CRISISデータベースが現時点では最も状況が反映されている.CRISISデータベースは3学会合同にて設立されたNPO法人日本ECMO netによって運営されている.2020年2月9日から患者数カウントを開始している.日本集中治療学会専門医認定施設,日本救急医学会救急科77専門医指定施設,救命救急センター,小児集中治療連絡協議会関係施設を中心に全国で610を超える施設の協力を得て,毎日更新されている.カウントしているICUベット数は日本全体の80%カバーをしている.国内累計だけではなく県別累計も確認可能である.県別での人工呼吸器受け入れ可能数および実施数並びにECMO受け入れ可能数および実施数を毎日更新している.
① 人工呼吸器管理について(図1
COVID-19における人工呼吸治療の成績累計は5月31日現在では,人工呼吸実施中は459名,軽快3,864名,死亡1,070名となっている.また,人工呼吸治療の日数とその転帰および年齢分布と転帰,性別と転帰が記されている.軽快患者の人工呼吸の平均日数は12日であり,中央値では8日となっている.それと比較し,死亡に関しては,平均日数は20日となっており,中央値は17日となっている.人工呼吸管理の実施年齢層は70~79歳ゾーンが1番多く,次いで60~69歳ゾーンが多かった.80歳以上に関しては,実施数は70~79歳と比較して実施数は半分以下であり,軽快数は80歳全体と比較して半分程度である.90歳以上のデータについての記載はない.男性が女性の約3倍数の人工呼吸実施数がある.
② ECMO管理について(図2
COVID-19におけるECMO治療の成績類は,5月31日現在では,ECMO実施数は54名,ECMO離脱数は422名,ECMO死亡数は220名であった.軽快患者のECMO管理日数は平均で14日であり,中央値で10日であった.死亡患者のECMO管理の平均日数は26日であり,中央値で20日であった.年齢分布に関しては,実施は60~69歳ゾーンが1番多く,次いで50~59歳ゾーンが多かった.70以上でも実施しているが,約半数が死亡している状態であった.人工呼吸器管理と同様に男性が女性の約4倍以上のECMO実施数がある.導入直前のP/F日に関しては50~99が1番多く,PEEPに関しては9~12程度が多かった.
③ 人工呼吸器管理とECMO管理での治療成績での推移(図3図4
第1波から第3波までの人工呼吸救命率は74%(第1波),77%(第2波),75%(第3波)の推移となっている.また,ECMO救命率は68%(第1波),61%(第2波),58%(第3波)の推移となっている.人工呼吸救命率は,第1から第3波と患者数の増加に関わらずとも救命率の明らかな低下は認めていない.ECMO救命率に関しては徐々に低下してきている.人工呼吸/ECMOの総合救命率は73%(第1波),75%(第2波),74%(第3波)の推移となっている.人工呼吸からECMOへの移行率は第1波は23.2%,第2波は11%,第3波は8.3%,第4波は7.6%となっている.

図01図02図03図04

III.NPO日本ECMO netとしての重症診療サポート
未曾有のICU入室者を出したCOVID-19によるARDSは普段入院に慣れている施設以外でも人工呼吸器管理やECMO管理を行う必要性があり,日本ECMO netでは下記の事業によって全国的なサポート業務を行うこととなった.
①ECMOチーム等養成研修事業
2020年5月から2021年3月において,厚生労働省事業として,各都道府県47箇所にて人工呼吸・ECMO講習会を実施した.上記重症治療の成績の向上には,重症管理に必要な知識と実践が必要となる.下記内容をコンセプトとした内容となった.また,非常事態宣言時には各講習会を現地で開催することはできず,webを利用しての講習会を実施した.
-講習会内容-
●p-sili(patient self-inflicted lung injury)概念の普及と肺保護戦略に基づいたARDSに対して人工呼吸器管理に対しての座学を行った.気管挿管に関しては早めのタイミングを意識すること.過剰な自発呼吸は残存せず,深鎮静・深鎮痛でも残存する場合は,筋弛緩薬投与すること.1回換気量は理想体重あたり6ml~8ml程度に制限すること.駆動圧に関しては15cmH2O以下を目標にすることを説明した.
●腹臥位療法を実践する.腹臥位療法は人工呼吸器関連肺障害を回避できる方法もしくは低酸素血症に対してのレスキュー治療として知られている.しかし,実践するにはチームワークと腹臥位療法実施中におこるトラブルシューティングを体得する必要がある.講習会中は,体位変換に関しての実践的な方法の伝授と腹臥位療法に関する効果の情報共有を行った.
●ECMO管理.特に呼吸ECMOに対する一般的な管理方法についての説明を行った.カニューラ選定について・導入基準・離脱基準・流量・抗凝固療法・管理方法・感染対策・安全管理についての教科書的内容を座学に行った.
●ウォータードリル.ECMOトレーニングに独特の手法である.実際にECMO回路を水で満たして,回路交換の方法,鉗子の使い方,ハンドクランクの使い方,サーキットチェックの仕方を実践的に習得する.また,回路内圧についてECMO回路実物を通して,手技や観察方法を習得する.
●シナリオシミュレーション.気管挿管からECMO導入までを高機能シミュレータによるモニター画面に変動するバイタルサイン,画像検査や血液検査,身体所見などを表示することにより臨床経過を擬似体験する.疑似ECMOサーキットおよび模擬皮膚を使用して,エコーガイド下穿刺にてECMO回路を確立させるまでを時間経過に沿った体験もする.複数の病院が参加することにより,各病院のデシジョンメイキングを知ることができ,治療の選択肢を増やすことができる.
②重症者治療搬送調整等支援事業
日本ECMO netでは,各地域に重症診療を専門としているコーディネーターが在籍しており,コンサルテーションを要請頂いた病院に訪問し,病状の経過や人工呼吸器設定,現在の薬物治療や呼吸療法の状態を確認している.必要があれば,さらなる重症加療ができる施設への転院調整をサポートする.また,人工呼吸器患者の転院リスクが高い状態でれば,ECMOチームが派遣され,現地病院にてECMO導入後にECMOセンターもしくはそれに準じた施設への転院(primary transport若しくはsecondary transport)を行う.
●コンサルテーション業務
365日24時間電話当番にてコンサルテーション体制を維持している.電話対応したものが初期対応をして,連絡していただいた地域のコーディネーターが状況判断をする.対応するメーリングリストがあり,日本ECMO net全体で共有して,ニーズに応じた対応をとる.電話だけのコミュニケーションで対応を基本とするが,しかし,対応困難なこともあり,現地まで出動して,主治医とともに対応を検討することも多い.
●primary transport
Primary transportとは,人工呼吸管理患者がいる病院に受け入れ先病院のECMOチームが派遣され,現地病院にてECMO導入し,その後に転院搬送をすることを指す.
人工呼吸器管理の設定が非常に高度な場合に移動中に酸素化が悪化し,心停止などのイベントを起こすことがあり,それを予防するためにECMOを導入する.導入に関しては,現地医療スタッフとECMOチームの協力が必要なためにチームビルディングが重要となる.現地にない物品に関しては,予めECMOチームが準備する必要がある.
ECMOチームリーダーは医師が務めることがほとんどであり,現地病院責任者への交渉も必要となる.
●secondary transport
Secondary Transportとは,すでに現地病院にてECMO導入はされているが,その後の管理目的に転院することを指す.ECMO転院搬送に関しては,搬送前の状態把握が重要となる.特に体位変換してもよい,呼吸状態や循環動態であるかの確認は必要となる.また,搬送中でのトラブルをあらかじめ,どう対応するかのブリーフィングが必要となる.

IV.おわりに
日本における人工呼吸救命率とECMO救命率の推移を示した.また,日本ECMO netによる事業を紹介した.COVID-19によるパンデミックの収束についてはまだ推測できない.そのなかでも重症診療に関しては単施設だけの診療ではなく,全国の施設が連携して,継続できる体制を維持していきたい.

 
利益相反:なし

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。