日外会誌. 122(5): 501, 2021
手術のtips and pitfalls
「大腸全摘・回腸嚢肛門吻合手術におけるtips and pitfalls―回腸嚢が肛門に届かない時―」によせて
帝京大学 外科 松田 圭二 |
本邦でも潰瘍性大腸炎(UC)の患者が増加して20万人を突破し,患者数でみると米国に次いで世界第二位である.近年UCの分野では生物学的製剤を中心とした内科治療が急速に進歩しており,世界的にも内科治療無効例に対する手術症例は減っていると言われている.一方でUC長期経過例が多くなり,UCに合併する大腸癌が多くみられるようになってきた.UC合併大腸癌は直腸に発生しやすいこと,多発すること,境界が不明瞭であることから,手術では肛門管粘膜を切除する肛門温存大腸全摘術+回腸嚢肛門吻合術(Ileal pouch anal anastomosis:IAA)が基本術式とされている.肛門管を温存する回腸嚢肛門管吻合(Ileal pouch anal canal anastomosis:IACA)は,肛門管を温存してdouble stapling techniqueによる器械吻合で行われるものであり,回腸嚢との吻合は問題になることは少ない.しかしIAAの場合,腹腔内および肛門の操作が終わり,作製した回腸嚢を肛門まで下ろそうとしても,肛門まで届かないことがある.すでに肛門処理をした後なので,IACAに戻すこともできない.無理な吻合をしてしまうと,縫合不全や回腸嚢壊死につながる.いずれにせよ最終的に回腸の永久人工肛門にせざるを得ない.
大腸全摘+IAA手術は,腹腔内操作と肛門操作に分かれる.UCの手術法については多くの書物が出版されているが,本企画では「回腸嚢が肛門に届きにくい時,どうすれば解決できるか」にポイントを絞って,①回腸嚢が肛門まで届かない時に,回腸嚢を肛門まで下ろすための腹腔内操作の工夫(回腸の血管処理や剥離,回腸嚢作製の方法など),②回腸嚢が十分に肛門まで届いていないときに,回腸嚢と肛門を確実に吻合するための肛門操作の工夫,の2点についてUC手術の経験が豊富で信頼できるお二人の外科医(小山文一先生,石原聡一郎先生)に執筆をお願いした.非常に限られた紙面であるが多くの創意工夫が詰まった内容となっている.大腸全摘術の前に一読して頂くと,「鬼に金棒」,「弁慶に薙刀」である.
利益相反:なし
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