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日外会誌. 122(4): 360, 2021

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会員へのメッセージ

学術集会への演題応募における倫理手続きについて

日本外科学会倫理委員長,東京大学大学院医学系研究科心臓外科 

小野 稔



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臨床研究の公正性の担保ならびに適正な被検者保護の観点から,施設における研究開始前はもとより,学術集会への演題応募においても抄録内容に含まれる研究が適切な倫理手続きの元に行われたかどうかを申告することが国際的に求められるようになった.日本外科学会では,学術集会における発表に際して倫理審査の必要な研究と必要としない研究をカテゴリー化した.それに基づいて,2018年7月の第119回日本外科学会定期学術集会演題応募時から倫理手続き申告の試行を開始した.第120回日本外科学会定期学術集会では,倫理審査が必要なカテゴリーの演題応募においては倫理審査の承認を取得していることを演題発表の条件とする運用が始まった.第121回日本外科学会定期学術集会においても倫理審査が必要なカテゴリーの演題応募における事前の倫理承認を条件としたが,新型コロナウイルス感染症による審査委員会の業務遅延等があることを受けて演題応募後の倫理審査報告を例外的に認めたが,発表時には承認を受けていることが必須とされた.
侵襲や介入を伴う臨床研究は研究開始前に自施設または関連機関での倫理委員会の承認を受けていなければ実施できないことはすでに周知であり,臨床研究における適切な倫理手続きの理解と遂行は学術研究に取組む医師・研究者の責務でもある.しかしながら,介入研究においてもいまだに倫理委員会での承認を得ないままに応募してくる演題が散見される.侵襲や介入を伴わない前向き観察研究においても事前の倫理承認が必要となることもすでに広く認知されていると思われるが,事前の倫理手続きが疎かになっている演題がこれまでに少なくなかった.外科臨床の学術演題で最も多い内容は後ろ向き観察研究である.後ろ向き観察研究に対しては,そもそも倫理審査が必要なのかと疑問を抱く会員もいるかもしれない.審査システムそのものが十分に確立されていないケースが小規模施設に散見されるが,その場合には近隣や関連の施設での審査となる.多忙な臨床業務の合間を縫いながら,上司の指示による「締め切り前の突貫演題応募」や「演題締め切り延長後の駆け込み応募」はもはや過去の遺物となってしまうであろう.
日本外科学会へ演題応募をされる際には,会員・非会員を問わず「学術集会への演題応募における倫理的手続きに関する指針」を熟読・理解したうえで,適切かつ適時に倫理承認が得られるように手続きを進めることを改めてご理解して頂ければと思う.臨床研究における被験者保護と倫理審査は時代の流れであり,演題応募時の倫理承認申告は,他の多くの学術集会でもすでに導入されつつある.

 
利益相反:なし

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