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日外会誌. 122(4): 359, 2021

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Editorial

新型コロナウイルスパンデミックとパラダイムシフト

藤田医科大学 医学部呼吸器外科学

星川 康



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私がこの原稿を書いているのは,新型コロナウイルス感染拡大の第3波のため11都府県に発令された緊急事態宣言が,さらに1カ月間延長されることが発表された2021年2月である.2月13日時点での世界の新型コロナウイルス感染者数は1億783万人に達し237万人以上が亡くなっている.日本の感染者数も41万人に達し6,900人以上が亡くなった.日本での致死率は60歳以上で6%,80歳以上では12%にも及ぶ.加えて,感染後半年経過しても63%で倦怠感,26%で睡眠障害といった症状が遺ることも最近明らかにされた.
待望のワクチンが数日中に承認される見込みで,2月下旬から医療従事者1〜2万名への接種が開始される.私の勤務する大学でも,集団接種のシミュレーションを行い,接種希望調査を急ピッチで進めている.2020年12月New England Journal of Medicineに発表された4万3千人を対象とした二重盲検無作為化比較試験では,RNAワクチンの2回の接種により95%以上の発症予防効果が得られた.一方で,心配されるアナフィラキシーは,接種100万回で11.1回しか報告されていない.このワクチンが新型コロナウイルスと人類の闘いのチェンジメーカーになることが強く期待されるが,発症予防効果の持続期間,再接種の必要性,長期的な未知の副作用の有無,住民の何割が接種すれば流行が制御されるかなどは明らかにされておらず,まだしばらくの間は三密を避ける生活と慎重を極めた診療体制が求められる.
人類はこれまでにも複数のパンデミックに襲われてきた.1918年に始まったスペインかぜは,世界の感染者数約5億人,死亡者は1億とも言われる.日本では約2,300万人が感染し約38万人が死亡した.第一次世界大戦の戦没者を含め,この時期の死者は若年層に集中しており,主力労働者層が大きく減少し世界経済の著しい停滞を招いた.一方で農機具の開発による農業の大規模化・効率化を推し進め,さらには女性の労働および政治参加が始まるという大きなパラダイムシフトを生んだ.
今回のパンデミックによるパラダイムシフトは何であろうか.その一つは間違いなくデジタル化の加速であろう.医療界でも,それまで困難とされていたweb会議はあっという間にできるようになり定着し,今までは手術の後空腹を堪えて参加していた教授会には(内緒ですが)お弁当を食べながらでも参加できるようになった.学術集会は,少数の現地参加者とオンライン参加に加え,オンデマンドでも視聴できるハイブリッド開催が一般的になった.今までは時間が重複して聴講できなかった発表を,繰り返し見ることができるようになった上,出張回数が減り家族と食事を共にする回数が増えた.医学生へのオンライン講義は当たり前になり,いかによい講義をオンラインで提供するかについて教官と医学生との間で真剣な討議がなされている.本号(第122巻第4号)にも,縫合実習をオンラインで提供した素晴らしい報告が長崎大学からなされていることを付記したい.
パンデミックは,健康,社会,経済上著しい負の側面を持つ一方で,パラダイムシフトにより新たな未来を加速させる側面を持つ.われわれ外科医も,このポジティブな側面を将来の診療,研究,教育に上手く利用する賢さを求められている.

 
利益相反:なし

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