日外会誌. 122(2): 269-271, 2021
定期学術集会特別企画記録
第120回日本外科学会定期学術集会
特別企画(7)「NCD(National Clinical Database)の10年を振り返る―課題と展望―」
3.Japan TVT registryの現状,課題,展望
1) 大阪警察病院 心臓血管外科 前田 孝一1) , 伊苅 裕二2) , 林田 健太郎3) , 小林 順二郎4) , 斎藤 滋5) , 志水 秀行6) , 富田 英7) , 澤 芳樹8) (2020年8月15日受付) |
キーワード
NCD(National Clinical Database), TAVI(Transcatheter Aortic Valve Implantation), PMS(Post Marketing Surveillance), PMDA(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency), FDA(Food and Drug Administration)
I.はじめに
一般社団法人National Clinical Database(以下,NCD)は2010年に外科系臨床学会が設立した手術症例データベースであり,この10年間専門医制度を支えてきた.今回NCDの10年を振り返るにあたり,大動脈弁狭窄症に対する低侵襲治療である経カテーテル的大動脈弁植込み術(Transcatheter Aortic Valve Implantation:TAVI)の症例データベースであるJapan TVT registryの現状,課題,展望について述べる.
II.Japan TVT registryとは
本レジストリは大動脈弁狭窄症に対するカテーテルを用いた新しい低侵襲治療であるTAVIのレジストリーである.このTAVIは2013年に国内で承認された後,本邦で爆発的に普及している.TAVI導入当初より国内への安全なTAVI導入・普及を目的に日本循環器学会,日本心血管インターベンション治療学会,日本胸部外科学会,日本心臓血管外科学会からなる経カテーテル的大動脈弁置換術関連学会協議会がPMDA,厚生労働省と定期的に協議を重ねてきた(その後,日本経カテーテル心臓弁治療学会,日本小児循環器学会の両学会を加えた6学会からなる経カテーテル的心臓弁治療関連学会協議会へ名称変更).その運営の一環としてNCD登録システムを利用した症例登録の管理が挙げられる(図1).
III.Japan TVT registryの特徴
本レジストリの特徴としては,本レジストリを用いて市販後調査(PMS)を行った国内最初のレジストリであることが挙げられる.近年はデバイスラグをなくす方向から,PMSの役割も非常に重要視されており,各企業,NCDと議論を重ね,有害事象報告を含め,より厳密な(hardな)レジストリといえよう.特にfollow upもPMS症例5年,その他1年となっており,中長期成績も含まれていることも特徴である.また,NCDはこれまで外科系databaseが主導であったが,このTAVIは心臓血管外科,循環器内科がいわゆるハートチームとして治療に携わっていることも特徴といえる.さらに本レジストリ作成時よりPMDAと米国FDAとのHarmonization by doingの一環として米国の同レジストリであるTVT registryを参考に作成された.後に述べるが今後の両国間で行われる共同研究にとって非常に重要な要素であると考える.
IV.Japan TVT registryの課題
レジストリとして重要な要素の一つに登録率がある.これまで施設認定更新の際に本レジストリの100%データ入力が必要であったが,①PMS症例は5年,それ以外は1年と他のレジストリと比較し,follow up期間が長いこと,②JCVSDでの入力項目に加え,さらにかなりの追加項目が存在するなど入力項目が多いこと,③(2019年まで)データロック機構がなかったことが原因と考えられた.これらの課題に対しては,毎年開催されるデータマネージャー会議やNCDとの運営会議において議論を重ね,入力項目の調整,2020年よりデータロックを開始するなど改善をはかった.さらにdata照合を医薬品開発業務委託機関に委託することで,高い登録率のみならず,より高い質のレジストリへと変革している.その他の課題としては,倫理的問題である.例えば,「NCD登録事業と異なるため新たにJapan TVT registryとして倫理審査が必要」や「これまでいわゆるJCVSD同様問題ない」とする意見もあれば,「登録は問題ないが,レジストリを用いた学術使用は認めない」など各施設(の倫理委員会)によってJapan TVT registryに対する認識が異なることが多々あった.最終的には学会より登録・データ利活用の倫理審査を大阪大学倫理委員会へ提出・承認されたことで解決をはかった.その他,入力システムがimmatureなところに対してはNCDとの定期運営会議にて指摘し,適宜調整を行ってきた.
V.Japan TVT registryの展望
本レジストリを用いた新しいevidenceの発信を目的に,proposal researchの公募を始めた.公募により集められた演題は理事会にて限定数採択され,うち現在複数の演題については投稿中である.また,昨年よりPMDAとFDAとのHarmonization by doingの一環として学会での共同セッションが始まり,同時に共同研究も始まった.その際,上述の通り本レジストリは米国のTVT registryを参考に項目作成していることから,データの照合などが非常にスムーズに進むと考えられる.
VI.おわりに
以上,簡単ではあるがJapan TVT registryのこれまでの経過を述べた.まだ発展途上ではあるが,これまで同様NCD関係者と共に定期的な会議を行うことで,より質の高い,かつユーザーに優しいレジストリもしくはdatabaseが構築されるものと考える.
利益相反:なし
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