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日外会誌. 122(2): 262-264, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(7)「NCD(National Clinical Database)の10年を振り返る―課題と展望―」 
1.若手外科医からみたNCD研究の課題と展望

1) 大分大学 
2) NTT関東病院 
3) 東海大学 
4) 東京医科大学 
5) 東邦大学大橋病院 
6) 防衛医科大学校 

赤木 智徳1) , 河野 洋平1) , 中嶋 健太郎2) , 白下 英史1) , 衛藤 剛1) , 山本 聖一郎3) , 長谷川 博俊4) , 斉田 芳久5) , 上野 秀樹6) , 猪股 雅史1)

(2020年8月15日受付)



キーワード
NCD研究, 内視鏡外科学会技術認定制度, 腹腔鏡下低位前方切除術, 短期成績

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I.はじめに
私は2017年NCD研究課題に応募し,研究課題名「NCDデータ活用による消化器主要手術(胃・大腸・胆嚢)における治療成績に関しての検討」として採択された.現在採択されている中では,最も若い研究代表者の一人としてNCD研究の課題と展望について述べる.NCD研究の最大のメリットは一般的に,①大規模な症例数による解析が可能,②厳格なauditによる信頼性の高いデータであることにより,リアルワールドエビデンスの創出が可能であることが挙げられる.一方,デメリットとして,①遡及的解析,②長期成績がない,③データ登録の過度の労力,などがある.実際に担当する研究課題は,これまでに手術qualityの施設間差は治療成績に影響することが報告されてきた中で,大腸癌治療ガイドラインには,「腹腔鏡下手術の適応は,個々の手術チームの習熟度を十分に考慮して決定する」と示され1),ガイドラインは手術qualityに施設間差があることを前提に記載されていることに着目し,治療成績の施設間差を明らかにすることによりガイドラインでの各施設の習熟度をもっと具体的な記載にできるかもしれないと考え研究計画を立案した.

II.2017年度 NCD研究課題
JCOG0404試験のデータからでは,開腹手術と比べ腹腔鏡手術は短期・長期成績において施設間差が認められたものの,臨床成績に影響を及ぼす施設間因子は同定することができなかった.そこでNCDビッグデータを用いて解明することを目的とした.これまでにビッグデータを用いて日本内視鏡外科学会技術認定医制度の有用性を検討する研究はなく,今回の研究(腹腔鏡下低位前方切除症例41,239例,2014~2016年,図1)では,執刀医が技術認定医であれば術後短期成績を改善できるか検討した.後方視的観察研究で主要評価項目はmortality,副次評価項目は縫合不全,SSI,機械的/機能的イレウスなどとした.技術認定医執刀群12,666例 vs. 非執刀群 28,373例の比較検討を行った.患者背景のTおよびN因子は,より進行したadvance disease,また術前化学療法を要する症例が技術認定医執刀群で有意に多く,また腹腔鏡手術件数が多い施設で技術認定医執刀群が有意に多かった.手術成績は,手術時間,出血量,肺炎は技術認定医執刀群で良好な結果を示し,機械的/機能的イレウスは技術認定医執刀群で多い結果であった.主要評価項目であるmortality,縫合不全は2群間で差は認めなかった.多変量解析より技術認定医執刀群は,機械的/機能的イレウスを増やすが,縫合不全改善に寄与する因子であることがわかった(表1).主要評価項目であるmortalityは両群間に有意な差は認めなかったのは,発生率が少なかったためと考えられた.また技術認定医執刀群の機械的/機能的イレウス増加は,より進行した病変に対する腹腔鏡手術の適応拡大のためと考察した.今回の解析結果より,日本内視鏡外科学会技術認定医の手術施行は,腹腔鏡下低位前方切除術において,縫合不全改善に寄与したことから,技術認定医制度は合併症軽減に有用と考えられた.

図01表01

III.本研究課題を通じて感じたNCD研究のメリットとデメリット
今回実際に感じたNCD研究のメリットは,(1)大規模な症例数による解析が可能,(2)厳格なauditにより信頼性が高い,(3)RCTでは対象外(不適格規準)の症例を解析可能,(4)各専門家との共同研究作業によるビッグデータ解析が可能などが挙げられた.従って多領域共同でのリアルワールドエビデンスの創出が可能な状況で私はその恩恵を受け解析ができた.一方,デメリットとしては,(1)レトロスペクティブな解析,(2)長期成績がない,(3)データ登録に大きな労力が必要(その中でNCDのCRFに類似する登録は各組織一本化できれば労力削減に繋がることが期待できる),(4)リンパ節郭清レベル,腸管再建方法などのデータがない,(5)技術認定医が執刀医ではなく,助手もしくはスコピストでの手術参加の治療成績が不明,などが挙げられた.解析・研究から新しいエビデンスを創出するために各専門家(統計家,NCD事務局,日本消化器外科学会事務局,日本内視鏡外科学会事務局)との共同研究作業を行い,その経験を通じ,本研究の意義をつよく感じたのと同時に,現在のNCD研究のもつ今後の課題についても実感した.

IV.おわりに
NCD研究は登録の労力,長期成績については課題であるが,臨床のリアルワールドを反映し,外的妥当性の検証に優れていることから,日常診療に還元しうる大変重要な研究である.

 
利益相反:なし

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文献
1) 大腸癌研究会(編):大腸癌治療ガイドライン医師用2019年版.金原出版,東京,2019.

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