日外会誌. 122(2): 259-261, 2021
定期学術集会特別企画記録
第120回日本外科学会定期学術集会
特別企画(6)「時代が求める外科医の働き方」
8.魅力のある外科医の育成についての取り組み
国立国際医療研究センター 外科 山田 和彦 , 野原 京子 , 榎本 直記 , 三田 英明 , 和氣 仁美 , 寺山 仁祥 , 片岡 温子 , 多田 敬一郎 , 徳原 真 , 竹村 信行 , 清松 知充 , 國土 典宏 (2020年8月15日受付) |
キーワード
外科専門研修プログラム, 外科医育成, 魅力, 働き方改革, 社会人大学院
I.はじめに
2018年より新専門医制度が発足して約3年が経過した.新たな外科医を増やすための魅力を先輩外科医は常に発信していく必要がある.総合病院においての医療は悪性腫瘍に対する外科治療だけではなく,腹部救急疾患,化学療法,緩和医療にとどまらず,教育や研究,さらに医療連携など様々な場面に遭遇する.かつて3K(きつい,厳しい,汚い)と揶揄された外科医の生活をどのように変革したら魅力が出てくるのだろうか.いくつかの取り組みについて報告する.
II.取り組みの実際
当院は医師3年目以降の進路の受け入れ先として,レジデントとして外科に残る人数は少なかった.2018年に新専門医制度が導入されるにあたり,このままでは外科医がさらに減少することが危惧され,外科全体で魅力ある職場に変えていかないと若い外科医が増えない不安を強く感じていた.そこで新たな取り組みを行うことで若い外科医を増やすことができた(図1).昨今の働き方改革の流れが職場で導入されるようになり,会議は極力減らし,勤務時間内に行われること,時間外勤務の減少のために毎月の勤務時間チェックや土日,夜間の勤務の代休や年休取得を推奨した.外科では月1回の年休取得を義務化した.誰かが休みで不在であることが当たり前の日常となった.休むことでの職場に対する罪悪感を持つことがないように,チーム全体で管理をすること,上級医も積極的に休むこと,人数が足りない時は外科内で人数を融通することで対応した.また,女性外科医にも対応できる職場をどう作るかも重要である.子供のいる女性外科医は日当直なし,時短勤務も可能とすることで,出産,育児などでキャリアが止まる時間をできる限り短くする努力をしている.なるべく早く職場に復帰してもらうこと,残りのメンバーで支えるような雰囲気を作ることが大切である.
研修医が外科医を志す重要なイベントとしては,2015年より日本消化器外科学会が主催している消化器外科手術手技講習会(JESUS)への参加がきっかけになることが少なくない.JESUS参加者の日本消化器外科学会入会状況は3,4割と高率であると報告されている.当院でも毎年8~9名程度の参加をしているが,年を経るうちに外科を専攻する研修医が増えている.会の雰囲気の良さと全国の同じような仲間を前にして,また前年参加者が下級生を強く勧誘してくれるので志望科を決定する要因の一つになっていると考えている.
さらに,研修医レベルからの積極的な発表の場を作ることを画策した.院内はもちろん研究会,地方会,全国学会,海外学会での発表や論文報告をしてもらうことは高いモチベーションを保つことができると考える.全国学会の中には研修医セッションがあることが多いので,いきなり全国学会が発表デビューとなることもある.通常の仕事に加えての学術的指導は確かに大変だが,自身もそのような時期があったと思い,熱意を持った指導が将来に生きると信じている.
センター内に研究所との協力体制があり,若手外科医にもリサーチマインドの育成と学位取得を臨床と両立することを目指した.社会人大学院生(順天堂大学大学院)に入学して学位取得を目指すことが可能で,希望者は臨床と研究を両立させながら日々励んでいる.研修プログラムを調整することで,研究に重きを置く期間を作ることも可能とした.現在,外科から5名が社会人大学院性となり,研究所にて外科で切除された手術検体などを使用しながら研究を行っている.2020年には初めての学位審査が行われる.学位取得は一般病院では敷居の高いことであり,多くは大学医局に入局した上で医局の方針に従い取得に至ることが多い.若い外科医が市中病院でも臨床をしながら臨床や基礎研究にも参加できることは,リサーチに対する考え方をキャリアの早い段階で得ることができるので非常に有用である.
海外施設との協力体制も積極的に行っている.センター内に国際協力局があり,以前より多くの診療科と海外施設との交流の歴史がある影響で,外科でも2018年から展開事業としてスタートした.具体的には,ベトナム国政府とベトナム大都市の病院と提携を結んで,交互の往来による手術見学,指導,講演などを行ってきた.日本においては企業の協力を得て,ウエットラボでの研修を行ったがとても好評であった.若手外科医は外科専門医研修の中で国際協力局配属となり,海外での医療システムの研究や手術の見学を行っている.若いうちに海外の医療状況を知る事は,その後の進路の決定や海外医師との交流のきっかけとなり,機会があれば積極的な参加を勧めている.
III.外科専門医研修システムの現状
当院での外科専門医研修プログラムは,必須ローテーション(24カ月程度)と選択ローテーションに分けて,必要症例の蓄積とその後の将来を考えた選択をしている.必須ローテーションは,6診療科(上部,下部,肝胆膵,乳腺,心臓,呼吸器)を2カ月ずつローテートする.全国(山形,山梨,宮崎,千葉,都内)の数カ所の施設に連携施設になってもらい,6~12カ月研修してもらう.選択ローテーションとしては6~12カ月程度で,本人の希望を聞きつつ,ローテーション調整を行う.研究所での基礎研究,病理部や国際協力局勤務の形での海外研修でも可能とした.実際運用すると各自の希望は様々である.
IV.短期成果と問題点
種々の魅力を発信してきたことで,5年目までの医師の学会発表や論文発表は徐々に増加し,外科専門医制度の発足に伴い,応募の増加が得られている(0→3→4→5人).一方,まだ新しい体制であり,その評価には少し時間がかかるだろう.通常の市中病院での外科は腹部一般外科が主なので,心臓血管外科,呼吸器外科や乳腺外科を将来希望する医師にとっては研修内容に不満であるかもしれない.市中病院は大学病院とは異なる選択肢を示していくことが大切であろうと考える.
V.おわりに
コロナ渦の中で医療機関のコロナ対策や減収により,先が見えない状況が続いている.今回外科医の魅力を伝えるための取り組みを説明した.外科医の仕事は責任も重く,時間的な余裕がなく,楽ではないが,達成感と色々な将来像を示していくことが中堅以上の外科医の役目と考える.仕事にも家庭にも輝いて楽しそうな外科医を見せることが重要である.
利益相反:なし
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