日外会誌. 122(2): 224-226, 2021
定期学術集会特別企画記録
第120回日本外科学会定期学術集会
特別企画(5)「地域を守り,地域で生きる外科医たちの思い」
6.地域一般病院が患者に愛され職員も幸せになれるメソッド
1) 社会保険大牟田天領病院 外科 橋本 大輔1)4) , 大川 尚臣1) , 丸山 理一郎2) , 松村 富二夫1) , 興梠 博次3) (2020年8月14日受付) |
キーワード
地域医療, チーム医療
I.はじめに
筆頭著者は大学病院で肝胆膵外科高度技能専門医を取得したのち,2017年9月に福岡県大牟田市(人口12万人)の社会保険大牟田天領病院に赴任した(図1).大牟田市は熊本市や久留米市から約50kmの距離があり,大学病院などHigh volume center専門医療と医療のセンター化の恩恵にあずかることが難しい地理的条件であり,高齢の患者が多い.そのために,当院が一次救急から専門医療まで広い範囲で果たすべき役割は大きい.しかし,2017年以前は,当院は様々な要因で業績は落ち込んでおり,また看護師や薬剤師など職員は大きな負担を強いられていた.2017年4月,熊本大学病院呼吸器内科の教授であった興梠博次が病院長として就任し,様々な改革に取り組んだ.われわれは大学病院勤務の経験に基づき,地域一般病院だからこそ重要な診療を実践し,地域に貢献できたことを提示したい.
II.取り組んだ改革と結果
院長主導で救急医療の充実,ICUチームの設立など診療科間協力体制の確立,大学病院とのより強い連携,市民公開講座の充実など地域への還元が図られた(表1).改革に伴い2017年度は月平均で入院患者236人,救急車搬入94件,手術59件であったものが,2018年度はそれぞれ278人,123件,68件に増加した(図2).
またわれわれはメディカルスタッフの負担軽減のため,看護部や薬剤部に直接ヒアリングし問題点を抽出し医師へ還元した.特に電子カルテ導入の準備を進める中で,診療科や各病棟により様々であった入院患者に対する指示や内服処方ルールを院内で統一した.またクリニカルパスの改善と充実に努めた.
外科では病棟および手術室看護師とミーティングを行い,2017年12月から肝胆膵外科手術を導入した.2020年3月までに膵切除23件,肝切除13件を行った.学術活動の強化にも力を入れた.多施設共同研究も含め,多くの診療科で英文論文の執筆に取り組んでいる(図2)1)
~
6).
III.今後の課題
大学病院と比較して地域一般病院は職員と患者の結びつきが強く,患者中心の医療と職員の負担軽減やモチベーションアップは連動する.また地域一般病院ではその環境ゆえ情報がupdateされにくい.全員で新しい知識を積極的に吸収する姿勢がより重要である.また同時に当院の規模であればいわば全職員が顔見知りであり,部門間の障壁を撤廃し一丸となって改革に努めることが可能である.大学病院などHigh volume centerと地域一般病院は対等な立場で手を携えて地域医療を支えていくべきである.
IV.おわりに
筆頭著者は2020年4月,より専門的な研究と診療のために関西医科大学外科学講座に異動した.しかし大牟田天領病院での経験は大変貴重なものであり,興梠院長はじめすべての病院関係者に深く感謝しつつ今後に生かしたいと考えている(図3).
利益相反:なし
PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。