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日外会誌. 122(2): 139, 2021

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特集

肝胆膵領域腫瘍におけるBorderline resectable/Marginally resectableとは
―術前治療の可能性について―

1.特集によせて

横浜市立大学 消化器・腫瘍外科

遠藤 格



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本邦の癌腫別5年生存率をみると,膵癌,胆道癌,肝臓癌がワースト3を占めている.これは早期発見が困難で初診時切除不能の症例が多いこともあるが,切除できたとしても遠隔成績が極めて悪い一群が存在することによる.例えば,門脈腫瘍栓(Vp3/4)を伴う肝癌,動脈浸潤陽性の膵癌,肝十二指腸間膜浸潤のある胆嚢癌は肉眼的治癒切除が施行できても,5年生存率は5~10%程度,生存期間中央値は1年程度である.
最も切除成績が悪い膵癌に対してBorderline resectable(BR)の概念と術前治療が導入されたのは当然のことであった.その直接的な契機としては,有効な薬剤(塩酸ゲムシタビン)が開発されたことや,BRの定義が提唱され世界的なコンセンサスが得られたことである.定義が作られることによって多施設共同研究が活発に行われるようになり,新知見が急速に集積された.一方,肝癌や胆道癌でBRの概念が遅れている理由としては,抗腫瘍効果が高いレジメンが開発されていないこと,肝臓や肝門部の細い動脈は膵周囲の動脈よりも放射線障害に弱い可能性があること,肝臓が膵臓と異なり生命維持に不可欠な臓器であること,すなわち薬剤による肝障害により肝切除が施行できなくなる可能性があること,などがあげられる.これらの点は未だに大きなハードルとして存在している.
本邦は肝胆膵外科の症例数が多く,熱心な外科医が多いが,いままで多くの疾患の診断・適応が欧米で立案されてきた.日本人の優れた外科切除成績が却ってコンセンサス形成には逆風に働いてしまうのかもしれない.本特集が一つの契機となり国内でのコンセンサス形成の叩き台となってくれれば望外の喜びである.

 
利益相反
奨学(奨励)寄附金:大鵬薬品工業株式会社

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