[書誌情報] [全文HTML] [全文PDF] (618KB) [全文PDFのみ会員限定]

日外会誌. 122(1): 108-110, 2021

項目選択

定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(4)「希望と安心をもたらす医療安全管理―無過失補償制度の可能性も含めて―」
4.Privilege(臨床権限)付与による安定した安全な外科医療

1) 埼玉医科大学国際医療センター 消化器外科
2) 埼玉医科大学国際医療センター クオリティマネジメントセンター
3) 埼玉医科大学国際医療センター 医療安全管理学

岡本 光順1)2) , 小山 勇1)2) , 合川 公康1) , 岡田 克也1) , 渡邉 幸博1) , 渡辺 雄一郎1) , 高瀬 健一郎1) , 櫻本 信一1) , 山口 茂樹1) , 川井 信孝3)

(2020年8月14日受付)



キーワード
Privilege, JCI, 医療安全, 埼玉医科大学国際医療センター

<< 前の論文へ次の論文へ >>

I.はじめに
埼玉医科大学国際医療センターでは「がん,心臓病に対する高度専門特殊医療に特化し,かつ高度の救命救急医療を提供する」というミッションと,「安心で安全な満足度の高い医療を提供し,かつ最も高度の医療水準を維持する」という基本理念を実現するために,「患者安全と医療の質向上の継続的探求」を国際基準で評価するJoint Commission International(JCI)に挑戦し,2015年2月に日本で初めての大学病院プログラムの審査に合格してJCI認定医療機関となった.JCI認定基準の一つであるStaff Qualification and Education(SQE)の中で医療スタッフの臨床権限の付与に関する判定項目がある.われわれはこの基準を達成するために医師の任命およびPrivilege(臨床権限)付与に関するポリシーを作成して実践してきた.

II.JCIが求めるSQE(医療スタッフの資格と職員教育)
JCIは,医療スタッフの臨床に関する権限の付与として「病院はエビデンスに基づいた客観的な標準化した手順を設け,医療スタッフが患者の入院,治療,および/または当該医療スタッフの資格に合致した臨床サービスの提供を行う権限を付与する.」というスタンダードを求めている.JCIでは単に医師免許を持っているだけではなく,患者が期待する医療サービスを本当に提供できることの資格証明を要求している.

III.Privilege付与の方法
そこで当院ではBasic Life Support(BLS)の資格を有している医師または歯科医師に対してPrivilegeを付与することとした.Privilegeは年に1回,定期更新を診療部長が行うこととし,診療科特有の項目は他科に同一の医療行為がある場合,評価基準を統一した.
PrivilegeはA:指導および単独の施行ができる,B:指導医の監視下において施行できる,N/A:施行権限なし,の3段階に分けて付与される.また,院内統一項目,包括的がんセンター,心臓病センター,救命救急センターの各センター所属医師のみの項目,診療科特有の項目からなる.Privilegeは診療部長が評価し,経営推進会議で承認を得た後にスタッフポートフォリオシステムに登録された時点で有効となる.スタッフポートフォリオは電子カルテですぐに確認することが可能である.Privilegeの評価基準は経験年数,経験症例数,学会専門医資格,学会参加歴,院内資格認定,院内e-ラーニング受講歴,院内講習会参加歴などによる.
さらに,初めてA評価が付与された医師やPerformance Indicatorのモニタリング結果において問題視される評価を受けた医師に対して,当該医療行為やノンテクニカルスキルを含めた患者ケアを安全に遂行できる能力を有していることを一定期間他の医師による観察によって確認する,Focused Professional Practice Evaluation(FPPE)(限定的実践能力評価)のプロセスも有している.

IV.Privilege 付与の実際
院内統一項目である中心静脈カテーテル挿入は,Privilege Aを院内認定中心静脈穿刺登録医,Bを中心静脈穿刺修練医とした.包括的がんセンターでは抗悪性腫瘍薬の投与期間・投与量の増量修正を許可するPrivilege Aを院内認定抗悪性腫瘍薬指導医に限定している.
表1は筆者が所属する肝胆膵外科のPrivilegeの一部である.亜区域以上の肝切除術ではA評価を肝胆膵外科学会高度技能指導医か専門医の取得を条件にしている.しかし外科専門医を取得していればB評価でも指導医か専門医が前立ちをすれば執刀医となることが可能である.さらに複数診療科と共通の手術は主たる診療科の診療部長と相談してPrivilegeを設定することになる.例えば胃切除のA評価は消化器外科専門医かつ胃切除術者50例以上経験,B評価は外科専門医もしくは後期研修医以上かつ見学またはアシスタント20例以上とすることが上部消化管外科の診療部長から指示された.
手術においてPrivilegeは執刀時のタイムアウトで最終的に確認を行う.

表01

V.Privilege付与による成果と課題(表2
成果は医師の診療能力が可視化され,手術室のスタッフに共有できた,医師の独り善がりな治療行為を防止できる,診療部長の責任がより重要視された,Privilegeの評価基準となる専門医資格や講習会,e-ラーニング受講の意義が認識された,などがある.課題としては,Privilegeが医療行為を限定することで縮小医療につながらないように注意する必要がある,Privilegeの確認がタイムアウト時に適切に行われているかのモニタリングの必要性がある,Privilege評価基準の妥当性については学会専門医制度が必ずしも個人の技能を正確に担保しているわけではなく,見直しや改善の余地がある,などと考えられた.

表02

VI.おわりに
Privilegeによる診療システムはJCIが求めていて更新審査に合格するためだけに行っているのではなく,このシステムが患者安全と医療の質向上に貢献することを全職員が理解して実践することが最も重要である.

 
利益相反:なし

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。