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日外会誌. 121(6): 703-705, 2020

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定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(2)「夢を実現し,輝く女性外科医たち―求められるサポート体制と働き方改革―」 
10.日本女性外科医会が目指す男女共同参画

1) 東京大学 消化管外科学講座
2) 日本女性外科医会 
3) 昭和大学 乳腺外科学講座
4) 東京慈恵会医科大学 外科学講座
5) 川崎市立川崎病院 外科
6) 新潟県立がんセンター 乳腺外科
7) JR東京総合病院 外科
8) 東京女子医科大学 心臓血管外科

野村 幸世1)2) , 明石 定子2)3) , 川瀬 和美2)4) , 萬谷 京子2)5) , 神林 智寿子2)6) , 池田 真美2)7) , 冨澤 康子2)8)

(2020年8月14日受付)



キーワード
日本女性外科医会, 男女共同参画, 女性外科医

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I.はじめに
日本女性外科医会が設立され,9年が経過した.9年間代表世話人を務めてくださった冨澤康子先生に変わり,私が今年から代表世話人を引き継いだ.会は私を含め,七人の世話人と二人の顧問から成る.ここまで会が存続できた要因の一つに,世話人の間での大きな方向性としての意見の一致がある.今回はわれわれが創立以来持ち続けてきた意見について発表したい.

II.われわれの考える問題と理想
われわれの考える問題は大きく,家庭での役割分担,職場での仕事への機会,業績への評価に分けて考えられる.
1)職場,家庭内を含め,男女は同様に責務を担い,仕事を行う.これに基づくと,職場内での仕事も,家事,育児も役割分担はありえない.日本では職場の男女共同参画は進みつつあるが,家庭における男女共同参画は遅れており,その結果,女性が勤労をすると,女性の負担が大きくなっている現状がある.家庭の状況まで改善するのは早急には難しいが,後述する業績評価としていく方策はあると考えている.
2)女性のみにしかできない仕事は妊娠,出産,授乳だけである.それゆえ,この時期の女性は例外なく,大切に扱われるべきである.その「大切に扱う」指標として,男女雇用機会均等法があり,深夜労働に関する規定などが整備されている.それにもかかわらず,現場では遵守されていない現状や,妊娠出産に対する批判や不当な扱いがある.図1に妊娠,出産に関し,好ましくない意見を言われた経験のある女性外科医の年代別割合を示す.年代が若くなるに従い,そのような経験は減っているものの,20代でも未だ20%以上の女性外科医が妊娠,出産に関し,好ましくない意見を言われた経験があるのは驚くべきことである.その反面,妊娠,出産を期に,常勤として外科医を継続しているにもかかわらず,また,本人が望んではいないのに,同僚の男性よりも手術の件数が少ない,もしくは手術に入れない,というようなパワハラと思われる行為が多く聞かれる.これも,労働者としての女性外科医の権利を踏みにじる行為であり,上司にハラスメントとしての自覚が必要である.
3)両性に対し,仕事の機会は同様に与えられ,両性の仕事の成果は正当に評価され,同様に昇進の機会を与えるべきである.これが理想であるが,今までの日本社会はそれが成されてこなかった.また,上記1に関連するが,女性パートナーと同様に家庭の仕事をこなしつつ,仕事を行ってきた男性はごく僅かであり,エフォートの配分量の異なる,家庭で家事,育児を半分以上分担しない男性と同じ基準で仕事の業績が評価されることは正当ではない.医療,医学という学問は人々の社会や生活に根付いて,人々の幸福を追求する学問であり,人それぞれの家庭運営や家族への思いへの理解なくしては人々の幸福を理解する根本が不十分である.それゆえ,外科医として社会で働くキャリアだけではなく,家庭運営を行っていること自体が,外科医としてのキャリアにカウントされてもいいことと考えている.育児を行い,家庭においてその半分もしくはそれ以上を担当した外科医には,業績としてのクレジットがあってもいいのではないかと思うが,そのキャリアとしての重みをどの程度にカウントするかは議論のあるところかもしれない.とはいえ,学会を含め,指導的立場の女性が会員の男女比率に比し,少ない団体は外科系で顕著であり(図2),これから女性外科医が増加してくることを想定すると,学会の運営において女性を意思決定に取り入れていかないと,両性にとって理想的な運営にはなっていかないであろう.このような場合,その団体の意思決定機関ではクオータ制が望ましいのではないかと考える.北欧では,国会も含め,あらゆる意思決定機関に両性が40%未満になってはいけないという決まりを導入し,これにより男女共同参画を加速させた国もある.この方策は学会としても取り入れていいように思う.同時に,今後は機会,評価を平等にしていくために,外科系学会では,特に手術の機会に不平等がないかを注意深く検証する必要がある.
昨今,働き方改革が叫ばれ,長時間労働の制限,外勤も含めた労働管理がなされようとしている.これは男性外科医にも家庭の仕事をする余裕を与え,日本女性外科医会の望む方向へ大きく後押しをするものと考える.

図01図02

III.おわりに
未だ,男女共同参画は道半ばである.外科という社会はその業務内容ゆえにチームとしての結束が強く,そのリーダーには強大な決定権があることが多い.そのリーダーが自分と同じ種族としての男性の利権を擁護するようなことなく,将来の理想的な社会を見据えてチームの運営を行っていくことが望まれる.学会には是非,そのサポートをお願いしたいところである.

 
利益相反:なし

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